
私は54歳の時、食道がんを内視鏡切除しました。
以後、年に1度、内視鏡検査を受けており、今年も11月初めに国立がん研究センター中央病院で検査を行いました。
その時、健康保険証だけで、(70~74歳を対象とした)高齢受給者証を持っていませんでした。都庁が自己負担割合を誤って記載していたことが分かって、回収されていたからです。まだ普通に働いているので高齢受給者証があってもなくても自己負担は3割です。
ところが、国立がん研究センター病院の会計窓口は、二つ合わせて提示する必要があり、高齢受給者証がなければ健康保険証不所持で10割負担だというのです(*市区町村によっては健康保険証と高齢受給者証とが一体化したものもあります)。
「健康保険証不所持」という判を押された自分の会計書類を見て、いささか腹が立ちましたが、ぐっと我慢して10割負担の医療費を払って帰ってきました。
10月13日に、河野太郎デジタル相は、2024年秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカード(以下、マイナカード)と一体化した「マイナ保険証」に切り替える方針を発表しました。
もしも、マイナカードが全ての医療機関で健康保険証として使えるようになっていたら、前述のようなことは起こらなかったでしょう。
前置きが長くなりましたが、今回のテーマはマイナカードです。
強い反対があった「国民総背番号制度」
年配の読者の中には、1968年に検討され、世論の反発を受けて立ち消えになった「国民総背番号制度」を記憶していらっしゃる方もあるでしょう。これは、全国民に重複のない番号を振り、徴税や行政サービスなどを公平、公正に行うことを目的に、当時の佐藤栄作内閣が計画したものでした。
北欧のような高負担、高福祉の国では当時から導入されていた制度でしたが、我が国では、「国民総背番号」という前時代的なネーミングも災いして、政府による国民の管理を強化する制度だという強い反発が起こって実現には至りませんでした。
それから10年以上が経過し、今度は税制調査会が中心になって国民の所得を公平、迅速に捕捉するため、納税者番号制度の導入が検討されます。そして80年からスタートしたのがグリーンカード制度です。
グリーンカードは少額貯蓄等利用者カードとも言われるように、大きな資産を「マル優」が適用される小口口座に分散することによる課税逃れ防止を目的としていましたが、その先には、金融所得の分離課税から総合課税に移行したいという大蔵省(当時)の狙いもあったはずです。
「十五三一(とうごうさんぴん)」という言葉をご存じでしょうか。これは、税務署による不公平な所得の捕捉率を揶揄(やゆ)する言葉で、課税対象となる所得割合が、サラリーマンは10割、自営業者は5割、農家は3割、政治家と宗教家は1割という意味です。
グリーンカードが登場した時、私の感想は、「自民党もこんなことができるんだ」というものでした。自民党の支持者の多くは「五三一」の人たちですから、所得を裸にされて喜ぶはずはありません。案の定、制度は発足前からあれこれと難癖を付けられ立ち往生のまま頓挫しました。
この制度の狙いについて、危機感を抱いたのは資産を隠したいお金持ちと、その人たちを相手にしている金融機関を中心とする経済界でした。そのような有権者を敵に回したくない保守政権も、本音のところではこの制度を潰したいと思っていたのではないかと私は思います。
一方で、当時すでに多数派であったはずの「十」にあたる一般給与所得者は、手持ち資金を小口口座に分散して大きな資産を隠し、課税を逃れるなどの金融所得把握による課税強化を避けたいといった話とは無縁だったはずです。
むしろ、この制度によって高所得、高資産の人たちへの課税が公正に行われるようになるのは、一般国民には望むべきことだったはずです。ところが、反対の急先鋒(せんぽう)は、…
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