実践!感染症講義 -命を救う5分の知識- フォロー

HIV 予防薬を毎日飲む人が知っておくべき「三つの問題点」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
HIV/エイズに対する理解と支援のシンボルである「レッドリボン」にちなみ、赤くライトアップされた東京都庁舎=2022年12月2日午後7時50分、高木昭午撮影
HIV/エイズに対する理解と支援のシンボルである「レッドリボン」にちなみ、赤くライトアップされた東京都庁舎=2022年12月2日午後7時50分、高木昭午撮影

 12月1日は世界エイズデーでした。HIV(エイズウイルス)感染症関連のイベントが多数開催されるからなのか、毎年このシーズンになるとHIVについての質問・相談が増えます。そして、HIV関連で現在最も多い問い合わせが「暴露前予防(Pre-exposure prophylaxis 以下は略してPrEP<プレップ>とします)」についてです。これは、予防薬を毎日飲むなどの方法で、HIV陽性の人と性交渉をしても、自分は感染しないようにする方法です。最近、この「予防法」を求める人が急増しています。PrEPは世界的にはHIVの標準的予防法の一つですが、注意点がいくつもあります。そして、私の印象で言えば、その注意点を理解していない人が少なくありません。今回は、HIVのPrEPについて、その問題点を指摘することで安易な使用に警告を鳴らしたいと思います。

 HIVのPrEPについては過去に2回紹介しました。初回は2016年の「HIV感染、事前も事後も薬で防げるが…」で、2回目は19年の「HIV感染の心配に『海外では』安く使える予防薬」です。

希望者が増えてきた「PrEP」

 16年の時点では、谷口医院でPrEPを実施していたのは、ほとんどが外国人(国によっては自国の保険で個人負担がわずかになります)でした。しかし21年からは、PrEPで使う予防薬として海外の後発品を谷口医院が独自に輸入し、安価な薬の処方を日本人にも開始しました。(なお、日本では現在でもPrEPを保険診療で行うことが認められておらず、すべて自費診療となります。HIVのPrEPは通常毎日1錠の抗HIV薬を内服します。先発品を使えば、以前…

この記事は有料記事です。

残り3447文字(全文4145文字)

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。