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人工甘味料 多くとるとがんや心臓病が増えるか 欧米で議論が再燃

大西睦子・内科医
 
 

 砂糖のとりすぎが、健康に悪いことはよく知られています。それでも甘いものを食べたい。だから砂糖の代わりに、カロリーの低い人工甘味料を使おう。こうした考え方で、人工甘味料は世界中で使われるようになりました。では、砂糖を人工甘味料に置き換えると、健康によいのでしょうか。これには賛否両論があります。そのような中、フランスのソルボンヌ・パリ・ノール大学のシャルロット・デブラス氏らの研究チームが、2022年3月の医学誌「PLOS Medicine」に論文を発表し、一部の人工甘味料を多く摂取すると、がんになるリスクが高まる可能性を示しました。これは、10万人以上のフランス人を対象にした10年にわたる調査の結果です。その後、人工甘味料の安全性について議論が再燃しています。

調査の理由は

 今回の調査をした理由について、デブラス氏たちのチームは、論文で次のように述べています。

 「世界保健機関(WHO)は、砂糖のとり過ぎによる健康への悪影響(体重増加、代謝異常、虫歯など)を考慮し、遊離糖(単糖類=ブドウ糖・果糖など=と二糖類=ショ糖など)を1日の摂取量の10%未満に抑えることを推奨しています。そのため、世界中の消費者が求める甘味の確保に、食品業界では人工甘味料の利用が進んでいます。人工甘味料は、甘味を減らさず砂糖の量(カロリー)を減らせる食品添加物です。風味をよくするために、従来は砂糖を使用していなかった商品(フレーバーポテトチップスなど)にも使用されています」「人工甘味料(の一種)として知られる『アスパルテーム』は、世界中の何千という食品に含まれています。そのカロリーは、同じ重さなら砂糖と同程度(1gあたり4kcal)ですが、甘味は200倍も強く、同じ甘味を実現するのに、より少量で済みます。他の人工甘味料、例えば『アセスルファム-K』や『スクラロース』にはカロリーが全くなく、それぞれショ糖の200倍と600倍の甘さがあります」「人工甘味料が、いくつかの慢性疾患に悪影響を及ぼすことは(すでに)明らかです。食品添加物の安全性については議論があり、さまざまな病気の原因への役割について相反する知見があります。特に発がん性は、いくつかの実験的研究で示唆されていますが、確固とした疫学的証拠はありません。そこで『人工甘味料の摂取量』とがんになるリスク(全体および種類別)の関連性を調べるのが、今回の調査の目的でした」。この調査でいう「人工甘味料の摂取量」とは、具体的には、最も頻繁に消費されている3種類の人工甘味料、つまりアスパルテーム、アセスルファム-K、スクラロースを、人々が食事から摂取する量の合計です。

フランスの成人10万人あまりを追跡調査

 研究チームは人工甘味料の潜在的な発がん性を評価するために、「NutriNet-Santé研究」と呼ばれる疫学調査に参加しているフランスの成人、10万2865人のデータを分析しました。

 NutriNet-Santé研究は、栄養と健康の関係を調査するための、世界初のウェブベースの大規模疫学調査です。フランス国立衛生医学研究所など複数の研究機関…

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内科医

おおにし・むつこ 内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に、「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側」(ダイヤモンド社)、「『カロリーゼロ』はかえって太る!」(講談社+α新書)、「健康でいたければ『それ』は食べるな」(朝日新聞出版)。