
10月3日のコラム「新型コロナ 2学会が推す『新薬候補』を国の審査が退けた理由」で取り上げた薬、塩野義製薬の「ゾコーバ」(一般名:エンシトレルビルフマル酸)が、11月22日に緊急承認されました。そのコラムで述べたように、ゾコーバは7月の審議会で承認が見送られ、その後二つの大きな学会がゾコーバを早期承認するよう厚生労働省に提言を出すという異例の事態となりました。すると今度はその学会の方針に否定的な医師が声を上げるという複雑な経緯をたどりました。今回はまず初めに、ゾコーバが新型コロナウイルスの新薬として最終的に承認されるに至った経緯を振り返り、賛成派・反対派の医師の意見を紹介し、最後に「ゾコーバはだれに使うべきか」について私見を述べたいと思います。
前述のコラムを脱稿した直後の9月28日、塩野義製薬は、ゾコーバの効果や安全性を実際の患者で調べた「第3相試験」について、プレスリリースを発表しました。「鼻水または鼻づまり、喉の痛み、せき、熱っぽさまたは発熱、倦怠(けんたい)感(疲労感)」の5症状が消失するまでの期間が、プラセボ(偽薬)を使った患者は8日、ゾコーバを使った患者は7日となり「主要評価項目を達成した」という内容です。今回はこの結果が“好評価”されて厚労省の審議会が11月22日に承認するに至ったのです。
目についた「承認歓迎」の声
この発表を受け、メディアやSNS(ネット交流サービス)ではさまざまな意見が飛び交いました。その中には、ゾコーバの発売を歓迎する意見も目立ちました。※編集部注
例えば日本経済新聞は11月25日の社説で、「自宅検査で(新型コロナの)感染の疑いがあると…
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太融寺町谷口医院院長
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。