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治療の道のりを設計する「プログラム」と「レシピ」

津田篤太郎・新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 鍼灸健康学科教授
木製立体パズル「キュボロ」スタンダード50(木のおもちゃ)=カルテット提供(https://www.quartett.jp/)
木製立体パズル「キュボロ」スタンダード50(木のおもちゃ)=カルテット提供(https://www.quartett.jp/)

 クリスマスが近づいてきました。お子さんやお孫さんのプレゼント選びに腐心しておられる方もいらっしゃることと思います。

 先日、子供と百貨店のおもちゃ売り場を通りかかったところ、「キュボロ」というスイス製の玩具がディスプレーされていました。穴が開いたり溝を彫ったりしてある一辺が5㎝の立方体の木製ブロックが数十個あり、溝や穴同士を継ぎ合わせてブロックを並べると、木組みのサーキットコースが出来上がります。そこにビー玉を転がして遊ぶのです。

 子供はビー玉が立方体の穴を出たり入ったりして神出鬼没を繰り返すのを不思議に感じ、何度もビー玉を転がして遊ぶのですが、大人にとってはサーキットコースを設計するのが面白く感じられるかもしれません。

 ブロック同士をしっかり固定するような仕組みは全くなく、ただ並べて置くだけなので、せっかく作ったサーキットコースはかなり不安定です。ビー玉が勢いよく転がった衝撃だけでも立方体が動いてしまい、ビー玉がコースアウトしたり途中で止まったりします。

 こうした不安定性は、長大な経路を緻密に設計し、たくさんのブロックを並べてコースを作る際には大きなチャレンジになります。ビー玉がコースを逸脱しそうな箇所に一つずつ対策をして、不安定性を排除し、何度やっても同じようにビー玉が複雑に動きながら正確に転がっていくようにする。これは大人の楽しみ方でしょう。

 ビー玉を10個ぐらい転がすと、半分ぐらいはどこか予想もしないところに飛んでいくようなコースのほうが、実は子供にとっては楽しいのかもしれません。

 ただ楽しいだけでなく、どうしてビー玉が途中で止まってしまうのか、コースを外れてしまうのか、どうやったらそれを直せるのかを考えるのは、子供の思考力を育む効果があります。この玩具にとって、不安定性はむしろ魅力であり長所であると言えるでしょう。

 百貨店の店頭で子供が夢中になって遊んでいるのを見ていて、この連載(https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220912/med/00m/100/005000c)

で話題にした中井久夫先生が、治療には「プログラム」と「レシピ」の2種類がある、とおっしゃっていたのを思い出しました。

不安定性を受けとめる漢方医学

 「プログラム」は長大で複雑なサーキットコースのようなもので、できるだけ「不安定性」を排除して、いつも同じような結果が出るように設計されるものです。

 それに対して、「レシピ」はもう少し「不安定性」を受容しています。例えば料理の「レシピ」では、「塩コショウ少々」とか「お好みで……」などという曖昧な表現があったり、「昆布だしが…

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新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 鍼灸健康学科教授

1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科を経て、2023年4月より、新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科教授。聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 臨床教育アドバイザー 。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。