新型コロナウイルス感染症の国産飲み薬「ゾコーバ」は、塩野義製薬が過去の創薬研究で経験した失敗や蓄積が生き、誕生にこぎつけられたという。成功例が注目を集める中、製薬企業の研究者たちは「(薬になるのは)何万分の1」という厳しい挑戦に、どのように向き合っているのか。「自分たちが経験してきた失敗の数々は、今回のためのものだったかもしれない」と言う、立花裕樹・事業開発部長(45)と木山竜一・経営戦略本部長(60)へのインタビューの後編を紹介する。(文中敬称略)
ものになるのは100のうち1個もなし
――ゾコーバの研究に着手したとき、過去の失敗が立花さんの頭に浮かんだそうですね。どんな失敗ですか。
立花 これまで失敗してきた多くのプログラムたちです。ターゲットに問題があったものや、どうしても効果を高められなかったものもありました。さまざまな失敗を経験してきていたので、新型コロナのプロテアーゼの立体構造情報が公表されたとき、「これは自分たちがやるしかない」と思いました。「うまくいくのでは」という直感を持つことができたのも、これまでの経験のおかげだと思います。
木山 研究の世界では、うまくいったところにばかり注目が集まります。社内でも、経営層は生き残ったプログラムに関心を持ち、それらを評価します。しかし、本当は多くの失敗プログラムがあり、ものになるのは100個のうち1個もありません。実は、失敗していった99個がとても大切で、それらの失敗があったからこそ1個の成功が生まれるといえます。
――1個の成功に出合うのは、極めてまれだと思います。新薬として市場に出されるのは20万分の1の確率とも言われます。そんな厳しい研究を続けられるのはなぜですか。
立花 難しいものほどやりがいがあるという面はあります。世界のだれもできていないものを自分がやる、競争に勝つということの面白さもあります。
木山 「宝探し」とも言えるでしょう。エジプトの砂漠を掘り続けている研究者と似たところがあるかもしれません。
――しかし、ツタンカーメンの黄金のマスクのようなお宝は、なかなか見つからないですよね。
木山 そうですね。しかし、やる前からあきらめることがあってはなりません。新型コロナウイルスについても、もともと社内にコロナウイルスの研究をしている研究者がいました。コロナウイルスの一種であるSARS(重症急性呼吸器症候群)が2003年、MERS(中東呼吸器症候群)が12年に報告されました。約10年後に、また次の新しいコロナウイルスが発生するのではないか、と…
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