
スマートフォンやパソコンに依存し過ぎて、生活に支障を来す問題がテレビやインターネットなどで話題になっています。「スマホ依存」「ネット依存」といい、私のクリニックでも近年、こうした問題に悩む患者さんからの相談が少なくありません。今回は、私が経験した患者さんのケースを通じて、スマホやパソコンがもたらす負の側面についてお伝えしようと思います。
3台のスマホを持ち歩く
はじめにご紹介したいのは、20代後半の女性です。この女性は、システムエンジニア(SE)で、昼間はプログラミングの仕事をしていました。帰宅後は、寝るまでの時間を活用して動画を製作し、副業としてYouTuberもやっていました。
ところが半年ほどたってから、昼間、ボーッとすることが多くなり、SEの仕事が手につかなくなったと言います。やる気が出ず、会社の上司から「おかしいよ」と言われたため、うつになったのではないかと心配になり、私のクリニックにやってきました。
話してみると、女性はとても知能指数(IQ)が高く、話す内容も高度なものが多いのです。SEだけあって、コンピューターについてとても詳しい人でした。
一方で生活のリズムはかなり乱れていました。YouTubeに上げるための動画のネタを探そうと、スマホを使ってネットサーフィンを続けているうちにやめられなくなった。仕事のため朝の6時半に家を出なければならないのに、夜の2時、3時までネットを見続けてしまう。2時に寝ようと布団に入って目を閉じても、まぶたの裏がらんらんと輝いていて眠れないというのです。
検査をしたところ、軽度のうつ病と診断されました。しかし、どうも「典型的なうつ」とは違うのです。
一般的なうつの場合、眠れないといった身体症状のほかに、一日中気分が落ち込む、何をしても楽しめないといった精神的な症状が表れます。ところが、この女性は「やる気がない」「元気が出ない」「私はうつに違いない」と言いながらも、顔はニコニコと笑っているのです。
ネットの見過ぎが影響しているのは明らかだったので、女性にはネットを見るのを控えるよう指導しました。その後、パソコンで見るのをやめたようなのですが、スマホはやめられず、常時3台も持っていました。…
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くどうちあき脳神経外科クリニック院長
くどう・ちあき 1958年長野県下諏訪町生まれ。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センターなどで脳神経外科を学ぶ。89年、東京労災病院脳神経外科に勤務。同科副部長を務める。01年、東京都大田区に「くどうちあき脳神経外科クリニック」を開院。脳神経外科専門医であるとともに、認知症、高次脳機能障害、パーキンソン病、痛みの治療に情熱を傾け、心に迫る医療を施すことを信条とする。 漢方薬処方にも精通し、日本アロマセラピー学会認定医でもある。著書に「エビデンスに基づく認知症 補完療法へのアプローチ」(ぱーそん書房)、「サプリが命を躍動させるとき あきらめない!その頭痛とかくれ貧血」(文芸社)、「脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング」(サンマーク出版)など。