
ここ数年、スマートフォンをめぐり、子どものことで親から気になる悩みを相談されることが増えたと感じています。「それ、小児科じゃないの?」と思われる人もいるかもしれませんが、実は私の専門分野である「脳」に関係しているのです。インターネットがはびこるこの星において、ひょっとしたら我々の未来への、脳からみた警鐘なのかもしれません。
スマホの見過ぎで成績急降下
「スマホは1日どのくらいまで見せてもいいのでしょうか」「『寝る』と言って部屋を暗くし、ベッドに入ってからもずっとスマホを見ています。どうしたらいいでしょうか」――。4~5年前からクリニックで、こうした親の悩みを聞かされるケースが増えてきました。
親はスマホを子どもに持たせていいのか疑問に思っているようです。注意しても子どもはなかなか言うことを聞いてくれません。一方、子どもは友達とのLINE(ライン)のやりとりや、ツイッターやインスタグラムといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、オンラインゲームに夢中です。子どもからスマホを取り上げたり、壊したり、捨てたりして親子関係が悪くなったというケースもあります。そういえば最近、スマホをめぐってトラブルが生じ、13歳の娘が母親を刺殺したという悲しいニュースがありました。
スマホにはまると、なかなかそこから抜け出すことはできません。医療プレミアに2022年12月27日に掲載した記事「朝から晩までインターネット 高齢男性に表れた『異変』」にも書かせていただきましたが、そこには神経伝達物質のドーパミンが関係しています。ドーパミンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、人間にやる気や幸福感などをもたらします。そして何かを達成すると、より多くのドーパミンが分泌されて幸福感が得られ、次へ次へとなり、スマホの深みにはまるのです。
スマホゲームに夢中 その先に…
ところで、親が抱える問題は、さらに「その先」にあります。まさに最近、私が体験した女の子のケースをご紹介しましょう。
昨年11月ごろ、東京都の南部に住む女性が悲壮な顔をしながら、中学3年の娘さんを連れて私のクリニックにやって来ました。「娘の成績が1年前と比べて急激に落ちた。もしかして脳の病気か何かではないか、発達障害ではないか」――。そう心配になったそうです。
母親の説明では、こ…
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くどうちあき脳神経外科クリニック院長
くどう・ちあき 1958年長野県下諏訪町生まれ。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センターなどで脳神経外科を学ぶ。89年、東京労災病院脳神経外科に勤務。同科副部長を務める。01年、東京都大田区に「くどうちあき脳神経外科クリニック」を開院。脳神経外科専門医であるとともに、認知症、高次脳機能障害、パーキンソン病、痛みの治療に情熱を傾け、心に迫る医療を施すことを信条とする。 漢方薬処方にも精通し、日本アロマセラピー学会認定医でもある。著書に「エビデンスに基づく認知症 補完療法へのアプローチ」(ぱーそん書房)、「サプリが命を躍動させるとき あきらめない!その頭痛とかくれ貧血」(文芸社)、「脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング」(サンマーク出版)など。