
前回のコラム「市販薬 せき止めや総合感冒薬での依存症に要注意」では、市販の風邪薬やせき止めに少量ながら含まれている麻薬と覚せい剤について述べ、長期連用で知らない間に依存症になってしまった人のエピソードも紹介しました。前回も紹介した厚生労働省の資料にある「乱用されていた市販薬」のランキングをもう一度振り返ってみると、1位から5位までが、ブロン錠/ブロン液(鎮咳・去痰薬)、パブロン/パブロンゴールド(総合感冒薬)、ウット(睡眠薬)、ナロン/ナロンエース(鎮痛薬)、イブ/イブクイック/イブプロフェン(鎮痛薬)です。今回は第3位と第4位の市販薬に含まれる「ブロムワレリル尿素」という成分がいかに危険であるかについての話をします。
我々医師を悩ませる頭痛の一つに「薬物乱用頭痛」と呼ばれるものがあります。頭痛といえば片頭痛や筋緊張性頭痛、あるいは後頭神経痛なども有名ですが、この薬物乱用頭痛というのは非常に治しにくい、最も治療に難渋する頭痛の1つです。病名自体がおだやかでなく、薬物乱用と聞くと「違法薬物」をイメージする人が多いと思いますが、薬物乱用頭痛の「薬物」とは鎮痛薬全般のことを指します。つまり、どの鎮痛薬であっても飲み過ぎれば(乱用すれば)薬物乱用頭痛を起こす可能性があります。病名が示すとおり、その鎮痛薬を飲みすぎることによって誘発される頭痛です。後の事例で紹介するように、繰り返し起きる頭痛のために頭痛薬を飲み続け、その頭痛薬の成分で薬物乱用頭痛に陥るというケースが多いのです。
乱用で頭痛を招く市販薬も
さて、薬物乱用頭痛の原因となる鎮痛薬のなかで、私の経験でいえば、圧倒的に多いのが厚労省の乱用市販薬ランキング第4位の「ナロン/ナロンエース」です。では、昔からテレビCMでもおなじみの国民的鎮痛薬と呼んでもよさそうなこの有名な薬が薬物乱用頭痛を起こしやすいのはなぜか。それはブロムワレリル尿素が配合されているため他の鎮痛薬に比べて依存性が強くなるからです。
もっとも、ブロムワレリル尿素を含まない鎮痛薬でも薬物乱用頭痛は起こります。その原因として多いのは「非ステロイド性抗炎症薬」(NSAIDs)と呼ばれる鎮痛薬です。厚労省のランキングでいえば、2位、4位、5位の、パブロン/パブロンゴールド(総合感冒薬)、ナロン/ナロンエース(鎮痛薬)、イブ/イブクイック/イブプロフェン(鎮痛薬…
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太融寺町谷口医院院長
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。