
前回と前々回のこのコラムでは、誰もが薬局で簡単に買えてしまう風邪薬やせき止め、解熱鎮痛薬などには危険な成分が含まれていて依存症となってしまう恐れがある、という話をしてきました。前々回(市販薬 せき止めや総合感冒薬での依存症に要注意)は、主にせき止めに含まれる「エフェドリン」と「コデイン」という成分の話をしましたし、前回(市販の睡眠薬・鎮痛薬の成分 依存症や死亡の事例も)は、一部の鎮痛薬に含まれていて死亡事例もある「ブロムワレリル尿素」の話をしました。今回は「NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)」と総称される一連の解熱鎮痛薬、そして新型コロナウイルス感染症の流行で需要が急増した「アセトアミノフェン」という解熱鎮痛薬の話をします。なおNSAIDsは、市販の解熱鎮痛薬としておなじみの「イブ」や「ロキソニンS」が含む成分の総称です。
前回までの記事では、厚生労働省が発表した「乱用された市販薬ランキング」を紹介しました。そのトップ5を、もう一度振り返ってみましょう。
第1位から第5位は、ブロン錠/ブロン液(鎮咳去痰=ちんがいきょたん=薬)、パブロン/パブロンゴールド(総合感冒薬)、ウット(睡眠薬)、ナロン/ナロンエース(鎮痛薬)、イブ/イブクイック/イブプロフェン(鎮痛薬)でした。
この中でNSAIDsまたはアセトアミノフェンが含まれるのは、2位のパブロン(ゴールド)、4位のナロン(エース)、5位のイブ(クイック/プロフェン)です。ただし2位と4位は、過去2回の連載で紹介したように、NSAIDsよりも他の成分による依存性の方が重要です。一方、5位のイブはNSAIDs単独の製品です。なお「イブ」や「イブクイック」というのは薬の商品名であり、一般名(成分としての名前)は「イブプロフェン」です。
イブプロフェンは「アスピリン」(これも解熱鎮痛薬です)と並んで、世界中で最も入手しやすいNSAIDsのひとつです。薬局で購入できるNSAIDsで他に有名なものとしては「ロキソプロフェン」(商品名はロキソニンSなど)があります。医療機関で処方されるNSAIDsとしては、これらに加え「ジクロフェナク」「インドメタシン」「セレコキシブ」「メフェナム酸」などが有名です。
痛み止めは依存症を起こす
さて、痛み止めはどのような種類であっても依存症を引き起こします。また、たくさん飲みすぎた場合、鎮痛薬の効能が切れるとすぐに頭痛が生じる体質になってしまうことがあり、このような頭痛を「薬物乱用頭痛」と呼びます。
前回の記事で説明しましたが、私の経験で言えば薬物乱用頭痛を最も引き起こしやすい鎮痛薬は「ナロンエース」です。その理由は、ブロムワレリル尿素を含むからです。しかし、依存症も薬物乱用頭痛も、ブロムワレリル尿素を含まない薬、例えば「イブ」でも「ロキソニンS」でも起こり得ることは知っておかねばなりません。そして残念ながら、これらの薬の依存性や乱用のおそれは、「軽くみられて」いることが非常に多いと言わざるを得ません。ここで事例を紹介しましょう。
【事例1】30代女性
11年前から谷口医院をか…
この記事は有料記事です。
残り3306文字(全文4604文字)
太融寺町谷口医院院長
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。