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睡眠薬 依存症や「夢遊状態で問題行動」の心配

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
 
 

 過去3回にわたり、市販の風邪薬、せき止め、鎮痛剤などの危険性について述べてきました。これらが厄介なのは、薬剤に依存性があり、やめようと思っても容易にはやめられないからです。そして依存症を引き起こす物質は、これら以外にもいくつかあります。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんを診てきた私の経験で言えば、依存症の治療に最も難渋するのが、睡眠薬などとして使われる「ベンゾジアゼピン系」の薬とその仲間の薬、そして「覚醒剤」などの違法薬物です。これらは本連載のテーマである「感染症」とは関係がありませんが、依存症の話をし始めてこれら主要な薬物に触れないのは不十分な気がします。よって、もうしばらく、依存症の話の続きをしたいと思います。

 今回取り上げるのは主にベンゾジアゼピン系の薬です。前回までは市販薬でしたから、薬局には薬剤師がいるとはいえ、購入・服用はある程度は使用者の責任となります。一方、ベンゾジアゼピン系の薬は、原則として医師が処方します。これらは裏社会でも取引されていますが、医療機関で入手するのは(後述するように)とても簡単ですから、責任があるのは医師の方です。よって今回の内容は医師である私が同業者の医師を批判するかたちとなります。本来こういう批判はタブーとされているのですが、谷口医院で多くの依存症患者を診てきた私の経験から「同業の医師を批判してでも警鐘を鳴らさねばならない」と考えています。

 事例を紹介する前に基本事項を整理しておきましょう。ベンゾジアゼピン系の薬の作用は主に「抗不安作用」と「睡眠作用」です。有名な製品を挙げると「エチゾラム/デパス」「ブロチゾラム/レンドルミン」「アルプラゾラム/ソラナックス」、「リルマザホン/リスミー」などです。

 また、厳密にはベンゾジアゼピン系と異なるものの、働きや作用が似ている薬剤(ときに「Z薬」と呼ばれます)もあります。ややこしいことに、これらは「非ベンゾジアゼピン系」の薬とも呼ばれており、ベンゾジアゼピンとは区別すべきだという考えもあります。ですが、私の経験でいえば「非」がついていてもなお、ベンゾジアゼピン系と「同類」だと考えるべきです。依存性が強く副作用が似ているからです。これらの代表は「ゾルピデム/マイスリー」「ゾピクロン/アモバン・ルネスタ」などです。そして「ベンゾジアゼピン系」と「非べンゾジアゼピン系」、両方の薬をまとめて表す「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」という言葉があります。ここからは、この言葉を使って話を進めたいと思います。

 なお上で挙げた薬の名前は、それぞれ「一般名」(薬の主成分の名前)、「商品名」の…

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太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。