
本年1月に満65歳になり、名実ともに若年シニアの仲間入りをしました。毎年、1歳ずつ年を重ねるのはこの世の定め、避けることはできません。しかし、解決可能な問題として私が注目するのは病的な老化です。その一つに免疫防御機構の衰えがあります。生活習慣を正すことで、病的な老化を避け、免疫防御機構を良い状態に保つことができます。
前回は食育だったので、今回は睡眠の話をします。睡眠の質の低下は、免疫防御機構の衰えの原因になるからです。日本人はもちろん、世界的にも増加傾向にある、体内時計の乱れによって生じる睡眠障害。題して「ブルーライトによる睡眠位相ずれずれ問題」です。
体内時計に従って分泌されるメラトニン
昨年10月2日に掲載された私の「『睡眠の質』を高める三つのキーワード」の記事で、「睡眠の質」の制御には、メラトニン、オレキシン、コルチゾルの三つのホルモンが重要であるというお話をしました。今回は、体内時計と地球時間とのずれに関わるもっとも重要なホルモンであるメラトニンがテーマです。
近年、メラトニンの研究は大きく進展しました。メラトニンは夜間の睡眠の支配者です。一般的に、朝7時から午後3時過ぎまでの昼間の血中濃度は低く保たれていますが、体内時計の指令を受けて夕方4時ごろから少しずつ上がり始めて、夜9時から10時ごろ、入眠前には高値となり、私たちは眠気を感じるようになります。
このように、眠くなったら寝るというのが自然の姿です。体内時計と地球時間がうまく合っています。睡眠の質を高く保つことができます。
明け方に近づくにつれて、メラトニンの分泌は徐々に低下し、一方で、覚醒作用のあるコルチゾルやオレキシンの分泌が増えてきます。その結果、目が覚めます。
メラトニンは、基本的には体内時計に従って分泌されます。これに加えて、光の刺激によってメラトニンの分泌が停止するというもう一つの仕組みがあります。これは、体内時計(約25時間)と地球時間(24時間)との間の「位相のずれ」を調節する大切な仕組みです。
朝に光を浴びると、眼球の奥の網膜で検知して、メラトニンが抑えられ、体内時計の位相が1時間早まります。これによって体内時計と地球時間のずれが解消されます。位相のずれがリセットされるので、私たちは普段の生活通り、夜になると眠くなります。
子どもや若者の不眠症の増加
問題を起こす原因は寝る前のスマホ。夜になって、せっかく血中濃度が上がってきたメラトニンが分泌低下や停止してしまう事例が近年増えています。その結果、位相が後ろにずれてしまうのです。
一度メラトニン分泌が停止すると、回復するまで1時間から3時間も時間がかかり、その間、寝つきが悪くなります。
位相のずれの大きさは、光の強さや波長によって異なります。影響が大きいのは、ブルーライ…
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同志社大学教授
よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。