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「3た論法」って知っていますか?

勝俣範之・日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授
書店に並ぶ健康食品に関する書籍の数々=福岡市内で2005年撮影
書店に並ぶ健康食品に関する書籍の数々=福岡市内で2005年撮影

 医療に関する情報はネットや書籍にあふれかえっています。情報が氾濫している現代社会で、何が本当に正しい治療なのか? 何を信頼すれば良いのか? どうやって怪しい情報を見分けるのか? わけがわからなくなってしまうでしょう。今回は、信頼できる医療情報とはどのように得られるのかについて、医師主導ウェブサイト「Lumedia(ルメディア)」のスーパーバイザーを務める勝俣範之・日本医科大武蔵小杉病院教授が解説します。(この記事は北里大医学部付属新世紀医療開発センターの佐々木治一郎教授がレビューしました)

科学的におかしな「3た論法」

 世の中には、いろいろな健康に関する情報がたくさんあります。関節痛に効く○○というサプリメント、血圧を下げる〇〇という健康食品、がんに効く〇〇というキノコなどなど、これらの情報の中には、科学的データとして、〇人に使ったら、〇人が良くなった、だから効果があった、などとの注釈がついているかもしれません。一見すると、もっともらしいデータに見えるかもしれませんが、実は、この「使った」「治った」「だから効いた」の論法は、「3た論法(注1、2)」といって、科学的には間違った考え方なのです。

 以下の例は、どうでしょうか? ネットなどで、実際に存在する記事です。

・お金がたまる金の財布を買ったら、お金がたまったという人がいた。このお財布でお金持ちになれる。

・末期がん患者がアガリクスを飲んだら、がんが治った。アガリクスは有効である。

・風邪になった時、ミカンをたくさん食べたら、早く治るというエビデンスがある。

 お金がたまる金の財布などが本当に存在するのでしたら、私も買いたいと思いますが、これはさすがにありえないと思われるでしょう。アガリクスは、キノコの一種ですが、ネットなどで、検索すると、アガリクスががんに効果があったという記事はたくさん表示されます。ミカンには、ビタミンCが多く含まれていて、ビタミンCが風邪に効いた、などとの記事も多く目にします。これらの情報は、すべて、「使った」「治った(お金持ちになった)」「だから効いた(金の財布は効果がある)」の「3た論法」になりますので、科学的には、「間違っている」ことになりますが、金の財布は、感覚的に理解できるけど、アガリクスや、風邪にミカンは、なぜなのかは、ピンとこないかもしれません。今回は、「3た論法」と科学的検証について、解説したいと思います。

お金がたまる金の財布が本物かどうかを検…

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日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

1963年生まれ。88年富山医科薬科大学医学部卒業。92年から国立がんセンター中央病院内科レジデント。2004年1月米ハーバード大生物統計学教室に短期留学。ダナファーバーがん研究所、ECOGデータセンターで研修後、国立がんセンター医長を経て、11年10月から現職。専門は内科腫瘍学、抗がん剤の支持療法、乳がん・婦人科がんの化学療法など。22年、医師主導ウェブメディア「Lumedia(ルメディア)」を設立、スーパーバイザーを務める。