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「郵便局に行かないと!」 高齢男性の気持ちを高ぶらせた、あるもの

ペホス・認知症ケアアドバイザー
 
 

 脳梗塞(こうそく)を起こし、脳血管性認知症や失語症の後遺症が残った80代の男性。ある日、在宅で介護してくれていた妻が交通事故で亡くなり、急きょ特別養護老人ホームに入所することになりました。ところが、施設の外に出ようとし、職員が制止すると興奮して怒り出してしまいます。男性はどこに行こうとしているのか――。思うように言葉が出せない男性に代わり、職員たちが男性の行きたい場所を探っていくと、どうやら郵便局に行きたがっていることが分かりました。男性を郵便局へと駆り立てたものは何だったのでしょうか。認知症ケアアドバイザーのペホスさんが解き明かします。

バブル期に会社を起こしたAさん

 Aさん(82歳・男性)は若い頃、カラオケボックスなどの娯楽業の会社を営んでいました。バブルで経済に活気があふれていた時でした。

 順調に店舗を増やしていましたが、バブルが崩壊し、景気が冷え込んでからは、店舗の縮小を余儀なくされました。立地条件の良いライバル会社の店舗にお客が流れていき、ついには会社をたたむことになりました。

 当時まだ50代だったAさんは、その後、兄弟が営む会社で働くようになり、70歳を過ぎるまで仕事を続けました。

立て続けに病がAさんを襲う

 仕事を辞めて、妻とのんびりと過ごしていたAさんでしたが、ある日、胸の痛みを訴え、救急搬送されました。病名は、心筋梗塞でした。幸いにも早期に対処できたことで、後遺症もなく回復することができました。

 ところが、その半年後、いつもの時間になっても夫が起きてこないことを心配した妻が部屋に行くと、Aさんが布団から起き上がれなくなっていました。急いで救急車を呼び、病院に搬送された結果、脳梗塞を起こしていたことが分かりました。

 一命を取り留めたものの、今回は発症から時間がたっていたこともあり、Aさんには右半身まひや脳血管性認知症、失語症の後遺症が残りました。

在宅での暮らしに突然訪れた転機

 妻は夫と会話が通じないことにストレスを感じていましたが、住み慣れた家で夫と2人で暮らしたいという思いがあり、在宅での介護をスタートさせました。

 Aさんは妻よりも体が大きく、妻が自宅で入浴を介助することは難しいため、デイサービスを利用してお風呂に入れてもらいました。また、日々の健康観察と相談ができるように訪問看護を、通院や外出時に手伝ってもらうために訪問介護も利用しました。

 これらのサービスを組み合わせ、興奮したり混乱したりすることもなく過ごせていたAさんでしたが、…

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認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら