最期まで私らしく~知っておきたい 在宅の医療・ケア~ フォロー

認知症の介護 「自宅か施設か」と悩んだ時の選択肢

中澤まゆみ・ノンフィクションライター
 
 

 「そのうちに」と思っているうちに、ある日、突然やってくるのが介護です。そして、介護が始まると、多くの介護家族や介護者が直面するのが「自宅か施設か」の葛藤。昨年からそうした相談をいくつか受けています。そこで改めて考えたのは、1人暮らしの高齢の親への目配りの大切さと、医師や介護の相談窓口が「自宅生活はもう無理」と、安易に施設入居を勧めることが与える家族への影響でした。

突然、飛び込んできた親の認知症

 昨年12月中旬、東京都世田谷区在住の里美さん(56)から、「相談に乗ってほしい」という連絡が入りました。前夜、横浜市の団地で1人暮らしをしている母(89)が、通院先の病院で「家の鍵がない」と大騒ぎ。110番され、警官に自宅まで送り届けられたというのです。

 里美さんは母のもとに駆けつけましたが、状況がよくつかめないので、母の住むUR団地に配置されている生活相談員に話を聞きました。すると、水道料を払わずに水道を止められたり、近所の店に買い物に行った際に財布を忘れて知り合いに払ってもらったことを覚えていなかったり、転倒して救急搬送されたり、と里美さんの知らないトラブルがいくつもあったそうです。

この記事は有料記事です。

残り4039文字(全文4536文字)

ノンフィクションライター

なかざわ・まゆみ 1949年長野県生まれ。雑誌編集者を経てライターに。人物インタビュー、ルポルタージュを書くかたわら、アジア、アフリカ、アメリカに取材。「ユリ―日系二世 NYハーレムに生きる」(文芸春秋)などを出版。その後、自らの介護体験を契機に医療・介護・福祉・高齢者問題にテーマを移す。全国で講演活動を続けるほか、東京都世田谷区でシンポジウムや講座を開催。住民を含めた多職種連携のケアコミュニティ「せたカフェ」主宰。近著に『おひとりさまでも最期まで在宅』『人生100年時代の医療・介護サバイバル』(いずれも築地書館)、共著『認知症に備える』(自由国民社)など。