実践!感染症講義 -命を救う5分の知識- フォロー

飲酒 禁止とは言えないが「少量でも健康に有害」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
新酒を味わう「蔵開き新酒まつり」に参加し、酒造場前の広場で乾杯する参加者=福岡県みやこ町崎山で2023年3月5日午後1時6分、松本昌樹撮影
新酒を味わう「蔵開き新酒まつり」に参加し、酒造場前の広場で乾杯する参加者=福岡県みやこ町崎山で2023年3月5日午後1時6分、松本昌樹撮影

 新型コロナを含む風邪で用いる感冒薬やせき止めの危険性を取り上げたことをきっかけに始まった「依存症シリーズ」は、今回で最終回となります。総合診療を実践している太融寺町谷口医院では、精神科で診療を断られた依存症の患者さんの相談も受けています。依存症には、せき止め、鎮痛剤、覚醒剤などの「物質」による依存症だけでなく、ギャンブル依存、買い物依存、恋愛・セックス依存、ゲーム依存、仕事依存などもあり、多くのケースで治療は難渋します。「人間を理解するとはすなわち依存症を解明することではないか」と感じることすらあります。こういった「行動」の依存症も取り上げることも考えたのですが、本連載は感染症がテーマですから、脱線は今回を最後にしたいと思います。依存症の最終回に取り上げるのは「アルコール(酒)」です。

 アルコール依存症の治療は、以前は「完全に断酒する」が原則でした。しばらくやめていた人でも、少量でも摂取すると、せきを切ったかのように大量に飲みだしてしまうため、治療するなら完全断酒しかない、と思われていました。実際、私はアルコール依存症の患者さんから、「長期間やめていたのについついコップ1杯のビールを口にしたばかりに元の依存症に舞い戻ってしまった」、という話を何度も聞いたことがあります。私は一度、断酒会にオブザーバーとして参加したことがあります。そのときにも全員が「依存症を治すには一滴も口にしてはいけない」と話されていました。

「断酒」のほかに「減酒」の選択肢も

 ですが、その考えは最近少しずつ変わってきています。「少量なら構わない」という治療法、つまり「減酒」にシフトしてきているのです。この理由は、すぐれた薬が複数種類登場し、アルコール依存症に取り組む医師や医療機関が増えたからです。先に「依存症の治療は精神科医から断られることが多い」と述べましたが、アルコールについてはその限りではなく、紹介を受けてくれるところもあります。ちなみに、たばこ(ニコチン)の依存症の治療は、精神科ではなく内科系のクリニックで実施するのが一般的です。優れた内服薬(や貼付=ちょうふ=薬)のおかげで成功者は年々増えています。

 さて、これまでの「依存症シリーズ」で私は「(物質依存の場合)初めから摂取しないのが最善の対策」と述べてきました。覚醒剤や麻薬がその最たる例です。せき止めや風邪薬は「絶対に飲んではいけない…

この記事は有料記事です。

残り3732文字(全文4730文字)

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。