
厚生労働省は、2月にマスク着用に関する見解を出し「3月13日から、マスク着用は個人の判断が基本」だと明示しました。この見解が、多くの領域で物議をかもしています。「個人の判断」が厚労省の見解なのに、マスクを着用している人を非難する声が小さくありません。なかにはそれが「いじめ」につながるとの指摘もあります。そういう風潮を受けてなのか、医療現場では「反マスク」の風潮に恐怖感を抱いている患者さんからの声を聞きます。さらに、新型コロナウイルス感染症にかかったら重症化するリスクがある人を守る立場にあるはずの医療者までもが「マスクに効果がない」とする研究を錦の御旗(みはた)のごとく掲げ、SNSなどでマスク着用者をさげすむような発言をしているようです。いったい我々はこれからマスク着用をどのように考えればいいのか。今回も私見をふんだんに交えて解説していきます。
厚労省の見解を素直に解釈すれば、「マスクを着用するもしないも個人の判断。だから、他人のマスクにとやかく言うべきではない」となります。にもかかわらず、まるで「マスク着用が間違っている」と言わんばかりの空気が生まれています。
「マスク・拒否」と聞くと、この3年間で繰り返し報道された「マスク非着用者の入店拒否」などを思い出します。マスクを着用するよう店員に注意され、いわゆる「逆ギレ」し、その店員をビデオ撮影してSNSで公開したことが報道されたこともありました。マスクを着用せずに飛行機に搭乗しようとした男性が、強制的に降ろされて裁判になった事件もありました。「マスク警察」はたしかに行き過ぎた強要でしたが、これまでは「マスク着用」は、法的義務まではないにせよ、社会から求められていた規範であったのは事実です。
マスク着用は「個人の判断」のはずが
一方、3月13日以降の厚労省の見解は「個人の判断」であり「マスクを外せ」と言っているわけではありません。なのに、マスクを外すことを強いる圧力を作り出すのは明らかに間違っています。一種の“暴力”と呼んでもいいかもしれません。すでに、学校の現場では「いじめ」が懸念されているようです。
厚労省とは別に、…
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谷口医院院長
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。