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注目の抗老化物質「NMN」 効果や副作用は?

米井嘉一・同志社大学教授

 サプリメントの「NMN」(ニコチンアミドモノヌクレオチド)について、インターネットの記事やCMなどで見聞きしたことのある人は多いのではないでしょうか。最近は抗老化物質としても注目されています。私はこれまでも興味を持ったものは自ら調べ、服用して試すことを実践してきました。このNMNについても、二つの臨床試験の責任医師を務め、その結果を論文にまとめて公表してきました。NMNはいかなるもので、どんな働きがあるのか、期待できる効能や副作用についてお伝えします。

有害アルデヒドを代謝する酵素を補佐

 NMNは、人が生きる上で重要な「補酵素NAD」の材料となる物質です。NMNを摂取することで、不足しがちなニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を補給できるという利点があります。

 補酵素とは何でしょうか。体の中ではさまざまな化学反応が起きています。酵素というたんぱく質が、これらの反応が効率よく進むよう助ける役割をします。補酵素は、この酵素の働きを助ける成分なのです。他にチアミンピロリン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、コエンザイムなどがあります。

 例えば、お酒を飲んだ時には、エタノールがアセトアルデヒドに代謝され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に変わります。ALDHが働くためにはNADが必須です。そして、お酒を飲めば飲むほど、NADが消費されてしまいます。

 その他、高血糖(糖尿病や血糖スパイク)や高脂肪食といった糖化ストレスが強い状態でも、アルデヒドが過剰に作られ、NADの消費が進みます。

 これまでもNADを増やすための成分が提案されてきました。代表的なものに、ニコチン酸(NA)、ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドリボシド(NR)、トリプトファン(Trp)などがありますが、効率が良くありませんでした(NA、NAMの総称がナイアシン)。その点、NMNには専用の輸送体(Slc12a8)が細胞表面に準備されているため、消化管から吸収されやすく、血液中から細胞内へ移行しやすく、NADに変換されやすいという性質があります。NMNの効果は、NADになってからの作用の結果と言えるでしょう。

 以上のことは、私が師匠と仰ぐ米ワシントン大学医学部の今井眞一郎博士の研究成果です。師の研究領域は「NAD World」と呼ばれ、「研…

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同志社大学教授

よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。