
ちゃんと歯磨きをしているのに、むし歯ができてしまった――。こんな経験はありませんか。フッ化物(フッ素)を使った歯磨きの大切さは知られるようになりましたが、正しく使えているでしょうか。また、電動歯ブラシを使うとよく磨けると思いがちですが、実はそこに落とし穴があります。東京歯科大学の眞木吉信・名誉教授が、フッ素を使った科学的で効果的なむし歯予防について解説します。
歯磨きでむし歯予防は可能?
現代では「ヘルスプロモーション」(※1)が声高に叫ばれていますが、永久歯のう蝕(しょく)=むし歯=予防が進んでいません。その第一の理由は、「ブラッシング(歯磨き)が最高のむし歯予防手段である」と過信していたことにあるといえます。歯ブラシで細菌のかたまりであるプラーク(歯垢=しこう)を100%除去することは不可能であり、またブラッシングでプラークを除去できない奥歯の溝や隣接面からむし歯が多発することは、ご存じの方も多いと思います。
図1は1969~2016年における歯ブラシの使用状況の推移を表したものです。ブラッシングの習慣は飛躍的に定着し、現在では95%を超える国民が少なくとも1日1回は歯を磨く習慣をもち、77.0%の人々は1日2回以上歯磨きをしています。
しかしながら、日本人の歯磨きの回数は増えても、永久歯の1人当たりの平均むし歯本数は増えているのが現状です。
予防にはエビデンスが必須
むし歯予防は、単にその処置方法の問題ではなく、歯科診療所、家庭および学校などの場や、そこで必要な費用、さらには実用性や受容性も考慮する必要があります。予防のエビデンス(根拠)の観点からいえば、いずれの場においても「データが示されている予防効果の有無」がもっとも重要です。
表1は家庭や歯科診療所、および学校や施設などの地域集団といった三つの場におけるむし歯予防の方法、かかる費用および予防効果を示したものです。特にむし歯予防効果に関しては、学術論文としてデータが示されているもの(エビデンスのある効果)と、データは示されていないものの期待される効果(エビデンスのない予測)とが区別して表示されています。
「費用」の点では、歯科診療所の処置費用が高いというほかは、大きな違いは認められません。赤い枠で示した「う蝕予防方法」と「エビデンスのある効果」をみると、ブラッシングや食事指導(甘味制限など)などの保健指導の予防効果は、…
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