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レビー小体型認知症 発見者の小阪憲司先生からの「宿題」

工藤千秋・くどうちあき脳神経外科クリニック院長
今年3月に亡くなられた精神科医の小阪憲司医師。取材した当時、「1人あたり2~3時間かけて診察する」と話していた=2011年12月1日、稲田佳代撮影
今年3月に亡くなられた精神科医の小阪憲司医師。取材した当時、「1人あたり2~3時間かけて診察する」と話していた=2011年12月1日、稲田佳代撮影

 先月、横浜市立大学名誉教授で、精神科医の小阪憲司先生が亡くなられました。享年83。国内の認知症患者のおよそ2割を占めるという「レビー小体型認知症」を発見された世界的に有名な先生です。私とは専門分野こそ違いますが、留学先のイギリスで先生と出会い、この病気について直接お話を聞く機会に恵まれました。その際、先生から与えられた「宿題」が今も忘れられません。今回は、その時の思い出を振り返りながら、小阪先生が全力を注いだレビー小体型認知症についてお話しします。

「おばあちゃんの顔が怖い」「家の中にキツネが…」

 レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症とともに3大認知症の一つとして知られています。どんな病気なのでしょうか。まずは私がレビー小体型認知症と診断した患者さんのケースを見てみましょう。

 「もの忘れが気になる」――。正月が明けたある日、女性が60代前半の母親をともなってクリニックにやって来ました。

 私が母親に、正月からどう過ごしたのか尋ねても、母親は「普通です」と答えるだけ。しかし、女性は「それまで優しい母でしたが、母の孫が『おばあちゃんの顔が怖い』と言うんです」と訴えます。

 また、母親が孫にお年玉を渡す時は何ともなかったのですが、お年玉のお金を袋に入れて準備する際、手が震えるのを見たと、女性は話してくれました。

 その後、この母親はもの忘れがひどくなっていきました。女性は4月に親族を集めて花見をしようと企画しました。母親は花見前日のお昼にスーパーに買い出しに行ったのですが、自宅に戻るや…

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くどうちあき脳神経外科クリニック院長

くどう・ちあき 1958年長野県下諏訪町生まれ。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センターなどで脳神経外科を学ぶ。89年、東京労災病院脳神経外科に勤務。同科副部長を務める。01年、東京都大田区に「くどうちあき脳神経外科クリニック」を開院。脳神経外科専門医であるとともに、認知症、高次脳機能障害、パーキンソン病、痛みの治療に情熱を傾け、心に迫る医療を施すことを信条とする。 漢方薬処方にも精通し、日本アロマセラピー学会認定医でもある。著書に「エビデンスに基づく認知症 補完療法へのアプローチ」(ぱーそん書房)、「サプリが命を躍動させるとき あきらめない!その頭痛とかくれ貧血」(文芸社)、「脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング」(サンマーク出版)など。