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「心房細動の早期発見で心不全の予防ができる」 知っておきたい新常識

狩生聖子・フリーランスライター
循環器専門医でまつもとメディカルクリニック院長の松本佐保姫医師
循環器専門医でまつもとメディカルクリニック院長の松本佐保姫医師

 不整脈とは、脈が飛ぶ、脈が速くなるなど脈が乱れている状態を指します。不整脈の一種、心房細動(しんぼうさいどう)の2大合併症は「脳梗塞(こうそく)」と「心不全」で、特に循環器の専門医たちが注目しているのが心不全です。なぜ心房細動により心不全が起こるのでしょうか――。早期発見や治療の方法までを循環器専門医でまつもとメディカルクリニック院長の松本佐保姫医師に聞きました。

心不全パンデミックが危惧されている

 心不全は何らかの原因により、全身に血液を送る心臓の機能が低下した状態のことをいいます。心臓の機能が急低下し、救急治療が必要な「急性心不全」と、長期間、心臓の不調が続いている「慢性心不全」に分類されます。今回、取り上げるのは後者の慢性心不全(以下、心不全)です。

 心不全の患者は高齢になればなるほど多くなり、罹患(りかん)者数は全国で約120万人と推計されています。

 松本医師は「国民の4人に1人が後期高齢者となる2025年以降、治療が必要な心不全の患者さんが急増し、病院の対応が困難になる『心不全パンデミック』が起こるのではないかといわれています」と話します。

 心不全が重症になると酸素が十分に体にいきわたらなくなるため、安静にしていても呼吸や動作が苦しくなります。また、よどんだ血液が肺の毛細血管にたまり、酸素を取り込む能力が低下するために呼吸が困難になり、酸素投与が必要になることもあります。

 「心不全は一度、発症すると薬などで症状を改善できても、再び悪化するのが特徴です。よくなったり、悪くなったりを繰り返すうちに体を動かせなくなって、寝たきりになることが多い、『ピンピンコロリ』の対極にあるような病気といえるでしょう」

 こうした心不全の患者さんを検査すると不整脈の一種である心房細動が高い頻度で見つかるといいます。

 「実は心房細動は心不全の代表的な原因の一つです。心房細動がある場合、心不全の発症率は、心房細動がない場合に比べて約4倍と報告されています」

左心房がさざ波のように震える

 では心房細動とはどのような病気なのでしょうか。心臓は右心房(うしんぼう)、右心室(うしんしつ)、左心房(さしんぼう)、左心室(さしんしつ)の四つの部屋に分けられています。心房は血液を受け取り、心室は血液を送り出す役割をしています。

 心臓には、電気信号により1分間に50~100回で規則的に収縮・拡張するように指令を出す伝達回路があります。

 電気信号は心臓の右心房の「洞結節(どうけっせつ)」という部分から発動され、電気の通り道である「刺激伝導系」という流れに沿って、心臓全体に伝わっていきます。この一連の流れが何らかの原因でうまくいかなくなることで、不整脈が起こります。

 心房細動の場合は、左心房の近くにある「肺静脈の細胞」から、…

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フリーランスライター

かりゅう・きよこ 1966年神奈川県生まれ。立教大学経済学部卒。OA機器商社に勤務しながら週刊誌での執筆を始め、フリーランスライターとして独立。現在は健康分野(健康、医療、医学部教育など)を中心に書籍の企画・編集、取材、執筆をしている。著書に「ぐっすり眠る!37の方法」 (宝島社新書)など。