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老化を早める「糖化ストレス」 防ぐポイントは?

米井嘉一・同志社大学教授

 抗加齢医学(アンチエイジング)の研究で最近、重要視されているテーマの一つに「糖化ストレス」があります。体内のたんぱく質に余分な糖が結合し、たんぱく質が劣化することで、老化を早めると考えられているからです。一方、酸化ストレスもたんぱく質を変性させて老化を促進することが知られています。この二つのストレス、そのメカニズムの違いを理解することで、老化を防ぐための押さえるべきポイントが見えてきます。

「糖化」と「酸化」 二つのストレスって?

 酸化ストレスの歴史は古く、15億年前に地球上に酸素が増え始めた頃から生物は酸素を利用しながらも、酸化という副作用を防ぐ手段を築いてきました。これが抗酸化能力で、地球上のすべての生物の中で、人間はもっとも発達した酸化ストレス防御機構を持っています。

 一方、糖化ストレスはどうかというと、その歴史は浅いです。たかだか50年から60年、戦後の混乱期はむしろ栄養不足との闘いが切実な問題であり、糖化ストレスはほとんど問題になりませんでした。

 そして、飽食の時代とも呼ばれる現代は、交通の便もよくなり、自家用車が増え、運動不足の問題が加わっています。その結果、糖尿病、内臓肥満やメタボリックシンドロームに悩む人たちが増えています。これらの病気はいずれも糖化ストレスが強く、体の中に有毒なアルデヒドが過剰に発生する状態なのです。

 糖尿病は「万病の源」、その原因は「糖毒性」と言われてきました。そのメカニズムを調べてみると、糖質由来のアルデヒドが鍵を握ることがわかりました。「糖化ストレス」という名前はここから生まれましたが、最近では脂質やお酒由来のアルデヒドの影響も加わってきました。アルデヒドはたんぱく質と反応しやすく、その結果、アルデヒドが結合したカルボニル化たんぱく質、終末糖化産物(AGE)といったさまざまな老廃物を生成するため、老化現象の大きな原因になっているのです。これらアルデヒドからの反応をまとめて糖化ストレス反応と呼んでいます。

悪玉コレステロールを例に

 日本人の3大死因はがん、脳卒中、心臓病です。このうちがんを除けば動脈硬化が原因です。動脈硬化の中で最も重要なのは、血管の内腔(ないくう)にアテロームという粥状(じゅくじょう)物質が沈着するアテローム動脈硬化です。血管内腔が狭くなるため血流の低下を起こすとともに、不安定なアテロームの一部がはがれ、流されて別の場所で血管をつまらせることがあります。脳の血管がつまれば脳梗塞(こうそく)、心臓の血管(冠動脈)がつまれば心筋梗塞を起こします。これらの病気を未然に防ぐためには、アテローム動脈硬化を予防することが大切です。

 予防法にはどのようなものがあるのでしょうか。いろいろと調べてみたところ、酸化ストレスや糖化ストレスが関わっていることがわかりました。それでは、酸化ストレスと糖化ストレスは…

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同志社大学教授

よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。