
最近、双子のタレント「おすぎとピーコ」の2人が認知症の症状があり別々の施設に入所したというニュースが流れ、話題になりました。もちろん本当のところは知る由もありませんが、認知症が遺伝するのではないかと心配されている人はいるでしょう。私のクリニックにも、そうした患者さんが少なからずやって来ます。認知症は遺伝する場合もありますが、それよりもっと知っておいてほしい大事なことがあります。今回は、認知症と遺伝との間の「本当の関係」についてです。
「認知症遺伝子」が陽性 その時男性は……
先日、40代後半の男性が青ざめた表情をしながら私のクリニックにやって来ました。他の病院で脳ドックの検査を受けたといい、その結果をどう解釈すればいいのか分からず、困っているとのことでした。
男性はIT関係の会社で忙しく働いていました。ところが最近、もの忘れが多くなり、上司や部下からおかしいのではないかと指摘され、脳ドックの検査を受けたそうです。
磁気共鳴画像化装置(MRI)を使った検査では、記憶をつかさどる海馬に40代にしてはやや萎縮の傾向がみられましたが、前頭葉や側頭葉は問題ありませんでした。スクリーニング検査の「長谷川式認知症テスト」は30点満点中22点で、認知症の疑いはなかったのですが、別の「MMSE」という検査は30点満点中20点で、認知症疑いと出ました。
特に男性が気にしていたのが、認知症の発症に関係する「APO(アポリポたんぱく質)E4遺伝子」が陽性だったことです。男性の母親はアルツハイマー型認知症のため、2年ほど前に他界していました。男性は、「子どももまだ中学生になったばかり。検査を受けた病院から『生活に気をつけてください』と言われても、遺伝なんだから気をつけようがないじゃないですか。一…
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くどうちあき脳神経外科クリニック院長
くどう・ちあき 1958年長野県下諏訪町生まれ。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センターなどで脳神経外科を学ぶ。89年、東京労災病院脳神経外科に勤務。同科副部長を務める。01年、東京都大田区に「くどうちあき脳神経外科クリニック」を開院。脳神経外科専門医であるとともに、認知症、高次脳機能障害、パーキンソン病、痛みの治療に情熱を傾け、心に迫る医療を施すことを信条とする。 漢方薬処方にも精通し、日本アロマセラピー学会認定医でもある。著書に「エビデンスに基づく認知症 補完療法へのアプローチ」(ぱーそん書房)、「サプリが命を躍動させるとき あきらめない!その頭痛とかくれ貧血」(文芸社)、「脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング」(サンマーク出版)など。