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「その野菜、食べたいです!」 避難所の乏しい「食」の実相

金子至寿佳・和歌山医療センター糖尿病・内分泌内科部長
避難所暮らしも約半月が過ぎ、食事をする高齢者の表情には疲れがにじむ=岩手県山田町で2011年3月25日午後4時31分、金澤稔撮影
避難所暮らしも約半月が過ぎ、食事をする高齢者の表情には疲れがにじむ=岩手県山田町で2011年3月25日午後4時31分、金澤稔撮影

 近年、大地震だけでなく、豪雨災害など、かつて経験したことがない大きな自然災害が相次いでいます。最近も、石川県珠洲市や千葉県木更津市で揺れの大きな地震があったことは記憶に新しいと思います。ひとたび大きな災害が起こると、制限の多い避難所での生活を長期にわたって強いられます。そんな苦難を乗り越えるうえで、ぜひ気にしてほしいのが「食事」です。今回は、東日本大震災で被災者救護のため被災地に入った経験を振り返りながら、避難所の食にまつわる問題についてお伝えします。

生野菜をスーツケースに被災地へ

 2011年3月11日に起きた東日本大震災では、私が当時所属していた病院は5日おきに5人1組が被災地に入り、救護活動をしていました。発生直後の救急対応が必要な急性期からしばらくたち、慢性期の患者への対応が求められるようになった5月のゴールデンウイークの5日間。私は避難所のあった「陸中海岸青少年の家」(岩手県山田町)で寝泊まりし、救護活動をしました。

 現地に到着してすぐに救援物資に目がとまりました。各地から膨大な量の物資が届けられ、置く場所もないほどでしたが、野菜など新鮮なものはなく、インスタントやレトルトの食品など超加工食品の保存食ばかりでした。それを整理する人たちの表情も晴れません。避難所では何が不足していて、被災者が何を求めているのかという情報が伝わっていなかったのではないかと思います。

 おそらく生野菜は手に入らないだろうと想像していたので、自分用に火を通さなくてもよいキャベツやレタス、キュウリ、トマトなどの生野菜を選び、スーツケースに入るだけ詰めて、現地に入りました。幸い、施設の水道設備に損傷がなかったため、水を使って野菜を洗っていたら、それを見た被災者が「どこで手に入れたのですか!」と、勢いよく尋ねてきました。「支援物資で食べることができているので助かってはいるのですが……。約2カ月間、カップラーメンやカレーライスなどの保存食か菓子パンばかり。野菜なんてこの2カ月、口にしたことなく、体がおかしくなりそう。その野菜、食べたいです!」

圧倒的に足りない被災者の栄養

 避難所での食生活は困窮していました。たとえば、…

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和歌山医療センター糖尿病・内分泌内科部長

かねこ・しずか 三重県出身。医学博士。糖尿病医療に長く携わる。日本糖尿病学会がまとめた「第4次 対糖尿病5カ年計画」の作成委員も務めた。日本内科学会認定医及び内科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年病学会認定老年病専門医・指導医。インスリンやインクレチン治療薬研究に関する論文を多数執筆。2010年ごろから、糖尿病診療のかたわら子どもへの健康教育の充実を目指す活動を始め、2015年からは小中学校で出前授業や大人向けの健康講座を展開している。