
私は28歳の時、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学しました。さまざまな国籍の仲間たち(フェロー)がいて、たびたび一緒に昼食に出かけていました。ある日の中華料理店で、日替わりランチを食べた時のことです。
「米井、お前はなんでそんなにかんで食べるんだ? この料理はこんなに小さく切ってあるぞ。かむ必要ないじゃないか!」
料理は、タケノコとピーマン、豚肉のチンジャオロース風油炒めでした。タケノコは細切りではなく、1cm近い大きさのサイコロ形で、ピーマンと豚肉は細長くカットされていましたが、2cm近い長さでした。
アメリカ人の彼はスプーンで一口食べるたび、2、3回かむだけで、ごくんとのみ込んでいました。「どうだ。お前もやってみろ」
そこで、私も「2、3回かんでごっくん」に挑戦しました。
「そうだ。やればできるじゃないか」。彼はそう言ってほほえみます。
確かにやればできました。でも、その後が大変。2日ほどは、胃のあたりがムカムカして、おなかがはる腹部膨満感に悩まされました。影響は腸にも及び、腸内異常発酵のため臭いガスが発生して、胃腸は1週間近く不調でした。もう二度とやるまいと誓いました。
今回は、40年前の苦い思い出をひっぱり出して、彼と私は何が違うのか考えてみました。たどりついたのが「膵臓(すいぞう)パワー」です。
膵臓はどんな臓器?
膵臓は、胃の後ろ側(背中側)の、おへその少し上くらいに位置します。長さは15cmと細長く、脂肪組織に包まれて存在します。
膵臓の働きは「外分泌」と「内分泌」です。
外分泌とは…
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同志社大学教授
よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。