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RSウイルス、ワクチンで安心できるのは高齢者のみ

谷口恭・谷口医院院長
 
 

 8月28日、厚生労働省の専門家部会は60歳以上を対象としたRSウイルス感染症ワクチンの承認を決定しました。RSウイルスは高齢者が感染すると、ときに「死に至る病」となりますからワクチン承認は歓迎すべきことではあります。今回はまずRSウイルスとはどのような感染症であるかを紹介し、承認されたワクチンの話をします。そして次回、RSウイルスのワクチン政策における日米間のギャップを取り上げ、私見を交えてあるべき対策を紹介したいと思います。

近年は春から夏に流行

 最初に、RSウイルス感染症とはどのようなものかみてみましょう。秋から春にかけてせきがメインの風邪症状が出現するとRSウイルスが疑われます。しかし最近は、秋から春よりもむしろ夏に流行しています。過去5年間を振り返ってみると、新型コロナが流行した最初の年の2020年を除き、春の終わりから初夏に流行が始まりました。今年(23年)も5月からはやり始め、8月以降は減少傾向にありますが本稿執筆の9月上旬も終息したとは言えない状態です。

 RSウイルスは小児から高齢者まで誰もがかかる風邪の一種であり、厚労省によると、生後1歳までに半数以上が、2歳までにはほぼ100%が感染します。ですが、「RSウイルス感染症の診断をつけられたことがある」という成人はそう多くありません。なぜでしょうか。理由は二つあります。

検査は保険診療で認められず

 一つ目の理由は、成人が感染しても軽度で済むことが多く医療機関を受診せずに自然治癒するケースが多いからです。もう一つの理由は「検査ができない」です。私のような開業医がしばしば困るのが「RSウイルスがはやっているから検査するよう保育所から言われたんですが……」と言って受診される小児(の保護者)です。RSウイルスには、ちょうど新型コロナウイルスやインフルエンザと同じように15分程度で結果が出る便利な抗原検査キットがあって、この検査を希望する患者さんは少なくありません。ですが、その検査が(後述するケースを除いて)保険診療で認められていないのです。「自費でいいから検査を受けたい」という人もいますが、これもできません。なぜなら自費で検査をすると、少なくともその日の診察代や薬代、(…

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谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。