
彼女はまじめで、有能なタイピストだった。給料が上がれば人並みに喜び、当たり前に恋もするが、特別な望みや大それた野心はなく、政治・社会・宗教といった話題にはとんと無関心。いつの時代も、世界中のどこにでもいる平凡で幸福な若い女性の一人だろう。職業が、ナチスのナンバー2、ゲッベルス宣伝相の秘書だった点を除けば。
ブルンヒルデ・ポムゼルは昨年、106歳で亡くなった。103歳の時、戦後69年の沈黙を破り、カメラの前で生涯を語った。30時間にわたる独白を編集したドキュメンタリー映画「ゲッベルスと私」が、6月16日から東京・神田神保町の「岩波ホール」を皮切りに全国で公開される。
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伊藤智永
編集委員兼論説委員
記者歴30余年。平成の日本政・官界を担当してきた。ジュネーブ特派員として2010年、アラブ民主革命やギリシャ経済危機の現場を歩く。毎日新聞にコラム「時の在りか」連載中。著書に「靖国と千鳥ケ淵」(講談社+α文庫)「忘却された支配」(岩波書店)他。
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