障がいのある子どもたちに質の高い教育を

今井絵理子・参院議員
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今井絵理子氏=竹内紀臣撮影
今井絵理子氏=竹内紀臣撮影

政治家を志した理由の一つ

 もう耳慣れた言葉だと思いますが、特別支援教育とは障がいのある子どもたちへの教育のことです。文部科学省は「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取り組みを支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善または克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うもの」と定義し、2007年4月からスタートした教育制度です。歌手である私がなぜ政治家を志すのかとよく聞かれるのですが、その一つを端的に答えると、特別支援教育をより良いものにしたいという思いがあります。

「手話は上手に使えませんが、どうぞよろしくお願いします」

 ご存じの方も多いと思いますが、私には聴覚に障がいのある息子がいます。まさにこの特別支援教育にお世話になり今日を迎えています。政治のことも制度のことも分からないまま、ただひたすら息子と向き合って子育てをしてきたのですが、特別支援教育の現状に違和感を抱いてきました。

 立候補を決意したのも、私を含め多くのお母さんたちが抱える今の教育制度への疑問を払拭(ふっしょく)し、子どもたちのためにより良い教育環境をつくることができたら素晴らしいなと思ったからです。

 特別支援教育の理念はとても立派なものですし、現場の先生方は一生懸命頑張ってくださっており、とても感謝しています。しかし、その理念と教育現場の間に乖離(かいり)があることも否めません。

 例えば、現在の聴覚特別支援学校では約90%で手話による教育が行われています。しかし、手話を用いて子どもたちと満足にコミュニケーションをとることができる教員がどれほどいるかと問われると、答えることができる人はいません。私の経験でも、転任されてきた先生に「手話は上手に使えませんが、どうぞよろしくお願いします」と言われたこともあります。

 手話が全くできない先生や、ある程度は習得されていてもそれを用いて科目指導ができるまでには至らない先生がたくさんいらっしゃるということです。

 当然、子どもたちは先生の話を理解することが難しく混乱することになります。しかし、通常教育に準ずるとされる教育課程により、進級するごとに学習内容も通常学校と同じように進むため、学力の差も当たり前のように拡大するというのが現状です。先生方はとても頑張ってくださっているのにこのような結果となるのは、制度に問題があると言わざるを得ません。

障がいは一つではない 障がい種別の専門的な教員の確保

 まず、現在の教員の免許制度についてご紹介したいと思います。教育職員免許法は特別支援学校の教員に、小学校・中学校・高等学校・幼稚園教諭いずれかの免許状のほかに特別支援学校教諭免許状を所有することを義務付けています。しかし、同法の付則第16項に「当分の間」は特別支援学校の免許状はなくてもいいですよ、と書かれているのです。

 その結果、2017年5月時点で特別支援学校の教員の免許状保有率は77.7%、聴覚障害特別支援学校については51.7%にとどまっています。専門的な教員の確保が困難なことから、経過措置として付則を設けることによって障がい児教育を維持してきたことは理解できるのですが、この付則が設置された1954(昭和29)年からもう60年以上が過ぎています。この間、養成機関の拡充や免許取得の促進などすべきことはあったはずですが、放置されていたと思われても仕方ありません。

 近年になって、文科省も現役教員に対して通信講座の受講などによる免許状取得を支援する取り組みが活発になっていますが、その講座の内容を見る限りとても専門的な知識とスキルを身につけられるものとはなっていないことも不安な点です。実際に現職教員に免許状の取得についての意見を求めたところ、「免許状だけを取っても意味ないですよ」と聞かされ、それはそうだよねと思わずうなずいてしまいました。

 それならば、養成機関である大学の専門課程を拡充することが必要となります。しかし、これもまた「大学の専門課程を修了しても、手話などのスキルは身につかずに卒業するのが現実で、とても満足な指導ができるまでには至りませんよ」と聞かされ、制度の問題は根が深いなと身にしみて感じているところです。

 免許状とは別の問題もあります。何度も述べますが、先生方は大変努力をされています。勤務時間外に手話サークルに通うなど、必死に勉強されている方も多くいます。先ほどの問いに答えてくださった先生も、専門外である聴覚障害特別支援学校に配置されて困惑するなか、熱心に手話を学び今では満足に指導できるようになられたようです。しかし、そんな彼女も今年で赴任して6年目、来年は必ず異動があるのです。次の赴任校が聴覚障害の学校になる可能性はとても低いとのことです。ようやく身につけた専門的なスキルを継続して生かすことができない人事異動の仕組みがあるのです。

 すぐに解決できないことは分かっています。しかし、やるべきことのいくつかは分かっています。(1)法付則の廃止を見据えた早期の免許状保有率100%の実現(2)大学の専門課程の拡充と専門課程における教育カリキュラムの改善(3)現職教員への研修支援(4)教員のスキルを活用できる人事異動システムの構築(5)手話通訳士の配置など外部人材の登用--。他にも思いつく限りのことを検討していくべきだと思います。

「自立」ではなく「自律」を目指して

 障がい児・者政策を掲げる私は、厚生労働行政を専門にしているのかとよく聞かれます。それは障がいに関することは厚生労働省の範疇(はんちゅう)だという先入観によるものなのかもしれませんが、実際は多くの省庁にまたがるものです。その中でも最も大切なものの一つが教育だと私は思っています。

 障がいの有無にかかわらず、一緒に学び、遊び、育てる環境づくりを推進していかなければなりません。みなさん、ご自身の子どもの頃や、お育てになられたお子様のことを思い出してください。あっという間に1日が過ぎ、気がつけばもう大人。大人の1日と子どもの1日は全然違います。子どもたちにとって義務教育の9年間は巻き戻すことのできない貴重な時間です。一刻も早く制度の改善に着手しなければなりません。

 福祉サービスを充実していくことももちろん大切です。将来的な「じりつ」のためには、どれだけ手厚い教育と福祉のサポートをできるかが重要だと思います。ただ、「じりつ」と言っても私の考える「じりつ」は、「自立」ではなくて、「自律」です。

 誰一人として一人では生きていけません。全てを一人でできる「自立」を目指す必要はありません。みんな誰かを頼ったり、頼られたりして生きています。障がいのある人も自分で頑張れる部分は頑張ってほしいけれど、必ずしも一人で立つ必要はありません。

 時に人を頼ることができ、自分でしたいことを選択できる能力、つまり「自己決定能力」を身につけるという意味での「自律」を目指してほしいなと思っています。

 その「自律」を実現できるための教育制度をつくること。それこそが私の仕事です。全ては子どもたちの笑顔のために。

 江川紹子さんから一言

 芸能界出身だからか、新人議員でありながら、何かと言動が注目され「炎上」もしがちな今井絵理子さんですが、自身の子育て体験から見えてきた障害児教育の現状や対応策、教育の意義について書かれた本論考は、具体的で大事な問題提起だと思います。知らなかったことを、いくつも教えられました。ぜひ皆さんも読んでみてください。

 今井さんによれば、すでに「やるべきことのいくつか」は分かっている、とのこと。では、なぜ、それが実現されない、もしくは実現できないのでしょう。どのようにすれば、「やるべきこと」が実現するのでしょうか。あるいは、もっと先に「やるべきこと」があるかもしれません。

 また、ここでは聴覚障害児教育について書かれていますが、他の障害を持っている子どもへの教育では、どのような問題があるのかも、知りたいところです。

 さらに、子どもたちの「自己決定能力」を育んでいく、という点では、学校教育だけでなく、学校外の社会の方にも課題はいろいろありそうです。

 さまざまな立場の方からのご意見をお待ちしています。

今井絵理子

参院議員

1983年生まれ。SPEEDのメンバー、NHK「みんなの手話」の司会などを経て、2016年参院初当選。自民党女性局次長。参院比例、当選1回。自民党麻生派。