寄稿 児童虐待対策

学校で「親になる教育」が必要だ

    太田房江氏=根岸基弘撮影
    太田房江氏=根岸基弘撮影

     児童相談所の体制が不十分であることは認めなければならないが、児相の職員の方々は、皆一生懸命やっておられる。私が大阪府知事だった当時も、岸和田市で児童虐待事件が起こったが、担当の児童相談所長が「防ぐことができなかった」と、涙を流しておられたことをよく覚えている。

     よく指摘されることではあるが、日本は予算配分が高齢者施策に偏っており、家族政策、子ども政策への予算が少ない。

     厚生労働省が進めている、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を提供する「子育て世代包括支援センター」などを中心に、地域全体で子どもを守る体制を作っていく必要がある。

    情報共有のガイドライン、国が示すべきだ

     学校、警察、病院、市町村の連携、情報共有は、事件が起こるたびに問題になってきた。しかし、個人情報保護の問題があるため、取り扱いが難しく、現場での判断は容易ではない。厚労省がある程度踏み込んだ情報共有のガイドラインを作り、事例を示し、現場が勇気を持って対処できるような基盤を作る必要がある。

     さらに、現場のIT化を進める必要がある。企業と比べると行政の現場はIT化が著しく遅れている。

     例えば、“通報が重なる”など、一定程度の条件がそろったら警告を出すようなシステムがあれば、行政の効率が上がり、児童相談所の負担も軽減される。

    「親の責任」という基本を学ぶ

     家族は子どもを育てるうえで基本の単位であることは間違いない。家族を、安心・安全、生活の楽しい場として充実させることは、日本社会をより充実・安定したものにする上で、極めて重要であることは言うまでもない。

     しかし、例えば、学校での性教育はまだまだタブー視されている面がある。それもあって、子どもを持つことの意味、妊娠、出産、子育ての意義など、そうしたことが教育のなかで位置づけられていないのが現状である。

     親になるとはどういうことか、まず、親になるための教育が必要である。

     前述した「子育て世代包括支援センター」はそうした役割も担うが、教育の場とつながっていないという問題がある。

     里親や一時預かりなど、社会的な受け皿の充実は不可欠だが、まずは、“親が親としての責任を果たす”という基本を親にしっかり理解してもらうことが重要ではないか。

     私自身は子どもが欲しくても持てなかった。それだけに、子どもに恵まれた方がしっかりと子育てできる環境を作っていく努力をしたいと思っている。

    「愛のムチ」はない

     私自身も厳しいしつけを受けたと思う。思い返すとやはり自分のなかに痛みとして残っている。

     「愛のムチ」というのはないのではないか。“手を上げる”ということは、子どもを一人の人格としてとらえず、親の付属物としてみているからに他ならない。

     手を出さずに言葉で諭すことのできる親になるためにも、親自身の教育を含め、社会を変えていかなければならない。

     児童虐待防止法もでき、児童福祉法もたびたび改正されているが、社会の側がそれに応じて変わってきているか、と考えると疑問が残る。

     児童虐待に関し、私の知事時代と比較して何が変わったかというと、件数が大幅に増えた(児童虐待相談対応件数:2004年3万3408件 → 16年12万2575件)。

     そうした中で、東京都目黒区の船戸結愛ちゃん(当時5歳)のように、虐待の末に死亡するといった悲惨な事件もあり、防止できていない。本当に悲しく心が痛む。

    母親を孤立させてはならない

     もう一つ大切なことは、子育てする親を孤立させないことだ。

     夫が働きに出ている間に孤独感を深めた母親が子どもに手を上げてしまうという事案は多い。

     親になる教育の必要性は、もちろん母親だけではなく、父親も同様である。形だけの育児休暇をとるのではなく、子育てにしっかり関わる「イクメン」になってもらわなければならない。

     ただ、子育てを親だけの責任にしてしまうのもどうか。資格や経験を厳密に問うのではなく、地域で見守る「保育ママ」のような形、「おせっかいな近所のおじちゃん、おばちゃん」などが、コミュニティーの中で子どもを見守ることのできる仕組みづくりなども必要だと考える。

     私自身、いずれそういう形で社会に貢献したいという思いがある。「おせっかいな近所のおじちゃん、おばちゃん」のような人たちが活躍できる場を作ることで、解決される多くのことがあるのではないだろうか。

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    プロフィール

    太田房江

    太田房江

    自民党女性局長

    1951年生まれ。75年通産省(現・経済産業省)入省。2000年大阪府知事。13年参院初当選。厚生労働政務官などを務めた。参院比例、当選1回。自民党細田派。