政治プレミア 村井英樹さんの寄稿に一言

勤労者皆社会保険 「主婦・パート」への導入どうする? ご意見募集

    水無田気流さん
    水無田気流さん

     村井英樹氏の「勤労者皆社会保険」への提言、現実の「働き方の多様化」への対応として、重要なご指摘だと思います。今日の社会では、一昔前と比較してさまざまな領域が「多様化」している……とよく言われます。 

     でも、その多様化の内実とは何でしょうか。たとえば、未婚率や非正規雇用比率の上昇などがその代表例ですが、これらは「未」「非」の否定の接頭辞がつく語です。かつての安定的な状況であったものが、そうはいかなくなっている……という感覚が、背景にあるともいえます。

     ただ、これらは当事者が望んだ結果、そうなったものでしょうか。その多くは、「不」本意な、消極的選択の結果ではないのでしょうか。

     戦後昭和、とりわけ高度成長期に成立した日本社会の制度的基盤は、高い経済成長率を前提に、護送船団方式と呼ばれる安定した企業間相互扶助、若年男性を中心とした雇用の安定、そして安定した「正社員」の職にある男性と結婚し家事・育児に専念する女性が作る「サラリーマンと専業主婦」が基本の家族形態……等が入れ子構造になって作り上げたものでした。

     けれども、昨今は低成長時代に突入し、少子高齢化が進むなど人口動態の変化、産業構成比の変化、晩婚化や非婚化など旧来の家族形態に収まらない人たちの増加、さらには外国人労働者の増加など、さまざまなかたちで、就労・家庭生活・地域社会のあり方が変容してきています。

     これらは、かつての「安心安全の礎」の恩恵にあずかることが困難な人たちが増加した、ということでもあります。このような現状を背景に、村井氏がご指摘されたように、非正規も視野に入れた「人を守る」社会保険制度は、どのように構築されるべきでしょうか。

     個人的に1点だけ本寄稿に付け加えさせていただくと、現在非正規雇用のマジョリティーともいうべき、既婚女性・非正規雇用の問題がここでは触れられていない点が残念です。いわゆる「主婦・パート」属性の方々は現在800万人超で、非正規雇用全体の4割を占めています。彼女たちは税や社会保険制度に敏感な働き方をする層です。

     2018年より開始された税制度改革では、38万円の控除を受けられる妻の年収上限が103万円から150万円に拡充されました。さらに、これまでの配偶者控除に夫の年収要件はありませんでしたが、今回の改革で例えば「夫の年収が1120万円以下、妻150万円以下」であれば、夫は38万円の控除が受けられることになりました。また、配偶者控除の適用が受けられないときでも、配偶者の所得金額に応じて一定の金額の所得控除が受けられる「配偶者特別控除」は、妻の年収要件の上限が従来の年収141万円未満から、年収201万6000円未満までに引き上げられました。

     社会保険の被扶養者の認定基準は、すでに2016年の10月から短期労働者の厚生年金と健康保険の加入基準が変わり、旧来の「年収130万円未満」から「年収106万円未満」に引き下げられています。これにより、すでに年収130万円に満たない人でも、年収106万円以上であれば、社会保険の保険料負担が発生することとなっています。ただしこれは条件が厳格なため、実質的には夫の扶養のもとにある「第3号被保険者制度」を外れ、社会保険料支払い義務が課せられる「130万円の壁」が今なお根強いとも指摘されます。

     参考までに、パート・アルバイトとして働く女性に配偶者控除や第3号被保険者など「税・社会保険制度の優遇措置が廃止となったら、働く時間をどのように変えるか」と質問したところ、最も多かった回答は「働く時間を増やす」45.5%で、他方「働くことをやめる」は1.1%と大きな開きがありました(アイデム 人と仕事研究所 2016年版「パートタイマー白書」より)。これは裏を返せば、現状では女性非正規雇用者の多くが、社会保険料の支払い負担を避けるなど夫の扶養の範囲で働く時間をセーブしていることの証左といえます。

     さて、村井氏の提言する「非正規雇用も含めた勤労者皆保険」は、非正規雇用の最大多数派である女性たちの「内助の功」を奨励する配偶者控除等(もちろん、その背景には女性が正規雇用と出産・育児を両立できない雇用環境があるのですが)とセットになった現行のあり方を維持したまま、導入は可能でしょうか。

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    プロフィール

    水無田気流

    水無田気流

    社会学者・詩人

    1970年生まれ。国学院大教授。専門は文化社会学、ジェンダー論。著書に「『居場所』のない男、『時間』がない女」など。詩人として、詩集「音速平和」で、中原中也賞を受賞。ブログ http://d.hatena.ne.jp/minashita/ 、ツイッター @nonaioyaji
    。本名の田中理恵子名義でも執筆。