他国に頼らず主権を守る 急激な変化は起こりうる

木原稔・衆院議員
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木原稔氏=岡本同世撮影
木原稔氏=岡本同世撮影

 2018年4月25日、中国民間航空当局は、台湾に乗り入れる世界の航空会社に対して、各社が展開するウェブページに掲載されている「台湾(Taiwan)」の表記を「中国台湾(China Taiwan)」と修正するよう文書にて要請した。

 最終的に要請を受けた航空会社は44社にのぼり、その中には日本の航空会社4社も含まれていた。日本の航空会社は、中国・韓国・台湾を「東アジア」という地域でくくり、国名の表記を排除することで、中国の要請に事実上応えた。

日中台、微妙なバランス

 日本と台湾の外交関係は1972年9月29日で終了している。国際航空運送は、国家間の協定にのっとって履行される。したがって、日台間の航空運送に係る国家間の協定は存在せず、それは、非公式実務交流と呼ばれる民間交流維持の枠組みの中で事実上の国際関係をつないできた。

 日本と中国との間には、国家間の航空協定が存在しているが、そこに、日本と台北・台中・高雄を結ぶ各路線が触れられたことはない。「東アジア」の国際関係を俯瞰(ふかん)するに、「一つの中国」とは言うものの、日本との関係は、微妙なバランスの上に成り立ってきたと言える。

台湾との外交切り捨てた日本

 熊本を地元とする私にとっての日台関係は、志賀哲太郎抜きには語れない。熊本県益城町出身の志賀は、日本の統治下にあった台湾に渡り、明治から大正にかけての29年間、台中の北西部にあたる大甲の地にあって、小学校で代用教員として児童教育に一身をささげた。

 台湾の教育界に多大な貢献をした志賀は、「大甲の聖人」として、今日に至っても台湾人の敬愛を受けている。おもえば、農業水利事業に大きな貢献を果たした八田與一、芝山巌事件で暗殺された6人の日本人教師「六氏先生」をはじめ台湾各地で今なお尊敬されている日本人は多い。李登輝元総統も京都大学に学び、帝国陸軍に学徒として従軍した。

 東日本大地震の際、人口約2300万人の台湾から贈られた義援金は253億円といわれ、人口比からすると世界中どの国よりも群を抜いて多額であった。

 先の熊本地震に対しても多額の義援金が寄せられたが、高雄市と台南市の2首長におかれては、大きな被害を受けた益城町に足を運び、被災者支援の経験を視察するとともに、熊本県と熊本市を訪問し、合わせて2億円を超える見舞い金を届けた。

 それらの調整は、若き日に高雄市長を務めた謝長廷氏により、蔡英文新政権から台北駐日経済文化代表処の代表に指名され着任したばかりの初仕事として行われた。

 一方で、日本が電撃的に中国と国交を樹立し台湾との外交を切り捨てた72年の判断は、特異な出来事であった。

 70年に入ってから、泥沼化するベトナム戦争を抱える米国の中国への接近、英仏伊加の中国との国交正常化、それを追っての国連総会によるアルバニア決議による台湾の国連追放など、国際情勢の変化は、台湾から中国へと一挙に軸足を移し変える世界各国の動向を後押しする形になった。

「力による現状変更の試み」には敏感に対応

 その環境下に起きたニクソン米大統領の訪中は、世界に衝撃を与え、当時の田中角栄政権はその流れに追従した。ベトナム戦争が台湾の国際舞台における失権に少なからず影響を与えたことは事実と思われるが、それと関係して、「東アジア」の安全保障を論ずるには重要な事件がある。

 米国の南ベトナムからの兵力撤退は73年3月末に完了する。それを見てのことと思われるが、翌74年1月に、中国人民解放軍は、西沙諸島に駐留する南ベトナム軍を奇襲攻撃し、南ベトナム領であった西沙諸島一帯の占領を今日に至るまで続けている。そのいくつかの島嶼(とうしょ)では、埋め立てによる拡大が進み、滑走路や港湾を備えた中国人民解放軍の基地となっている。

 一帯を俯瞰して、安全保障上の均衡を崩し、あるいは均衡が崩れて支配が弱いと観測される地点にちゅうちょなく進出するのが、「東アジア」の実態であることを認識する必要がある。世界各地における「力による一方的な現状変更の試み」には、感度よく対応する必要があるが、とりわけ日本が一部となる「東アジア」においてはそのことが重要である。

 2010年、馬英九総統下の台湾では、台湾海洋探査院(Taiwan Ocean Research Institute)によって短波レーダーが東海岸3カ所に設置され、与那国島をはじめとする日本の島嶼部、および東シナ海ならびにフィリピン海の監視が今日も続けられている。

変化を的確に捉え、正確に先読みすべきだ

 米国の大統領は、民主党のオバマ氏から共和党のトランプ氏へと移行したものの、米国が世界の警察官として太平洋の自由主義支配を死守するという理念に対して米国民の命と富をささげることに、ブッシュ政権時代ほど積極的ではないことに変わりはない。

 南北朝鮮の融和は、在韓米軍兵力の削減をもたらす可能性がある。そのうえ南北が協働することにより、新たに強力な力が極東アジアに登場する懸念も拭い去れない。

 従来、米国の世界覇権にとって、日本は価値ある同盟国であった。また世界の安定のためには、その同盟関係が永続することが望ましい。

 それが故に、今日まで日本が米国に頼ることが良しとされてきた。しかしながら、日本が台湾との外交を切り捨てたように、急激に変化する国際情勢によって、日本が切り捨てられる立場に立たないという保証はどこにもない。

 変貌する安全保障環境を的確に捉え、あるときは正確に先読みして、外交関係においては多国間の枠組みを重視しつつも、2国間での対話を尊重し、かつ、有利なポジション取りに全神経を傾け、願わくは他国に頼らずとも主権を守ることができる国である必要がある。

 直近に起こった台湾表記問題は、それを教えてくれている。

木原稔

衆院議員

1969年生まれ。2005年衆院初当選。防衛政務官、自民党青年局長、文部科学部会長などを歴任。副財務相。衆院熊本1区、当選4回。自民党竹下派。