馬淵澄夫の「政治は術(アート)なり」

消費税率の引き下げ検討を 自民は争点にできず

馬淵澄夫・元国土交通相
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馬淵澄夫氏=根岸基弘撮影
馬淵澄夫氏=根岸基弘撮影

 自民党総裁選は、予想通り安倍3選となった。安倍晋三首相の「圧勝」だったのか、石破茂元幹事長の「善戦」だったのか、今もって両陣営はそれぞれ異なる立場の主張を繰り返しているが、国民目線から選挙論戦の中身を見ると、一騎打ちであるにもかかわらず、争点が明確にならないままに終わった「不完全燃焼」感は否めない。

経済政策での論戦不発

 とりわけ、私は、最も重要な関心事であった経済政策において、これほど突っ込みどころ満載の政権の政策に何ら一撃を加えることができなかった、石破元幹事長の戦略的失敗に、この先まだまだ続く自民党政権への不安がより一層募るところなのである。

 そもそも、チャンピオンとチャレンジャーの戦略は根本的に異なる。

 チャンピオンは、勝てなくても負けなければ、引き分けでそのまま「勝者」で居続けられる。一方、チャレンジャーは「勝利」以外にチャンピオンを引きずり下ろすことはできない。

 負けないままに引き分けてもそれは「敗者」となることを意味する。従って、常に、チャレンジャーは「勝利」に向けて、敢然と「対峙(たいじ)」していかなければならないのである。これを選挙に当てはめれば、チャレンジャーである石破元幹事長はチャンピオンである安倍首相に対して、「対峙」せざるを得ない「対立争点」設定を徹底的に行うべきであった。また、チャンピオンである安倍首相は、石破元幹事長が示す争点を、次々に「合意争点化」して、引き分けに持ち込めば良かったのである。

 果たして、討論はどうであったか。憲法は、安倍首相の「9条に3項加憲で自衛隊明記」に対して石破元幹事長は「9条2項を削除して集団的自衛権行使の範囲を法律で縛る」、であるから、憲法改正については合意争点となってしまっている。

 憲法改正は、国民からはまだまだ実感が伴わない議論であるが故に、憲法論議が総裁選の中でもとりわけ際立って注目されることはなかった。つまりは、合意争点となって、評価判断の材料にはならなかったのである。

国民の関心は「懐がどうなるか」

 では、国民の関心の高い、景気・経済対策、社会保障政策はどうであっただろうか。社会保障政策は景気・経済対策とは表裏一体の関係でもあるので、やはり、国民からすれば「懐がどうなるか?」という経済政策が最大の関心事である。

 つまり、両候補の間で、どれくらい経済に対する感度を持ち得ているかということが最大の対立争点化できるポイントであった。安倍首相は、民主党政権時代の3党合意に基づき2014年4月に消費税率引き上げを断行した。しかし、これによってデフレ脱却が停滞し、今日までも、家計消費支出は対前年比マイナスである。

 安倍首相はその後の総選挙で消費税率引き上げを延期したが、19年10月の消費増税は既定路線である。安倍首相は、もはや、10%への消費増税を断行する以外に道はない。しかし、果たして本当に、それで景気回復がなされるのか。

 繰り返しとなるが、いまだデフレ脱却を実現できぬまま消費増税を行うことは、アメリカの減税による好景気にけん引されて何とか維持されている今日の日本の経済状況を、真っ逆さまに転落させる恐れがある。なぜ、自民党総裁選で、争点としてこのことを設定できなかったのか。

 石破元幹事長は、消費増税を明言しその後の増税にまで言及した。一方、安倍首相も既定路線としての増税断行を語った。石破元幹事長は、国民にとって、最も重要な経済政策においても総裁選で、「合意争点化」させてしまったのである。致命的な戦略的失敗を犯してしまった。

消費税率引き下げも検討すべきだ

 では、対立争点化するためにはどのような策があったのか、ということを少し言及しておきたい。財政健全化路線をうたう財務省に洗脳された政治家たちは、すぐさま、財政規律理論を持ち出すが、財政健全化のための徴税行為としての政策について、「そもそも消費増税が本当に正しい選択なのか?」ということを、打ち出すべきだったと私は思っている。

 あまりにも短絡的に消費税が「公平な税」という認識を我々が持たされていることに、警鐘を鳴らすべきだと。

 消費税は公平中立の税制に見えるが、実際は価格転嫁ができるかどうかが、大きな鍵を握っている。大企業ほど、価格転嫁が容易であり、消費税率引き上げの影響が小さくなる。

 一方、競争にさらされている中小企業や個人事業主は消費税率引き上げによる影響を大きく受ける。従って経済政策として打ち出すべきは、既定路線の消費税率の引き上げ凍結、さらには、消費税率の引き下げまで言及すべきだったと思っている。

 私は昨年の総選挙に向けて、消費税引き上げは凍結し、さらには所得税の社会保険料控除の見直しなどによって6兆円の代替財源捻出を行い、3%分のさらなる引き下げまでを主張し、その内容については以下のレポートにまとめて発表をした。

「消費税引き下げの検討」

 このように、アベノミクスと呼ばれる経済政策の中でも、最大の失政となるであろう、2度の消費税率引き上げに対して、どう対峙していくかが、実は、総裁選で論ぜられるべき経済政策だったと、返す返す、残念に思うところなのである。

 逆に言うと、自民党の中では、このような大胆な経済政策を論じる土壌がないことも明らかになった。

 ならば野党が打ち出す、絶好の争点であることを、改めて伝えておきたい。

馬淵澄夫

元国土交通相

1960年生まれ。2003年衆院初当選。国土交通相、民進党選対委員長などを歴任した。政治団体「一丸の会」代表。衆院比例近畿、当選6回。無所属。耐震偽装事件の追及で知られ、福島第1原発事故では首相補佐官として対応にあたった。