徴用工問題、韓国にどう対応したらよい? ご意見募集

菅原琢・政治学者
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菅原琢さん
菅原琢さん

 労働者の基本的人権を制限し、劣悪な環境下で酷使したうえに十分な賃金を支払わないような企業は、現代の日本ではブラック企業と呼ばれて非難されます。この労働者には同情や支援が集まるでしょう。しかし、法も制度も異なるはるか昔の戦時下に、旧植民地であった朝鮮半島の人々の身に起きた出来事で、現在別の国家となっている韓国で提起されている訴訟の話となると、問題の捉え方や反応が途端に複雑になります。

 新聞、テレビ等で韓国の徴用工訴訟について報じられていますが、その多くは判決内容とこれに対する現在の日本政府(安倍晋三内閣)の反応を端的に伝えるのみです。また、ネット上で「解説」と称するものをいくつか確認してみても、「日韓請求権協定」なるものによって「完全かつ最終的に解決された」問題が今になって蒸し返されたのだとする現在の日本政府の公式見解に沿ったような指摘がやはり目立ちます。

 これに対して、今回の意見を募集することになった穀田恵二議員の記事では、「被害にあった個人の請求権」は消滅しないと過去に日本政府の見解が示されていたと指摘します。実際に国会の会議録を確認すると、1991年8月27日の参議院予算委員会において外務省の柳井俊二条約局長(当時)は確かにそのように答弁しているようです。

第121回国会参議院予算委員会 第3号

 一方、2018年11月14日の衆院外務委員会において、この91年の答弁について穀田議員に問われた外務省の三上正裕国際法局長は、請求権自体は確かに消滅していないとしつつ、財産などの実態的な権利は消滅しているため請求はできても裁判で救済されないものと日韓両国で約したのだと論じています。

第197回国会衆議院外務委員会 第2号

 前回のまとめ記事で現行憲法下の国会に期待されているのは「内閣の説明を引き出すこと」「立法の趣旨、法文の意味を明確にすること」と述べました。しかし、18年に行った政府の説明は91年の説明に含まれていません。これは、国会が内閣の説明をうまく引き出せなかったというよりも、18年答弁は後付けの説明と解するのが素直でしょう。

 ただし、政府の説明や立場が後から変わることは国際関係ではありうることです。一般に他国との条約や協定の類いは、これを成立にこぎつけるために、意味や解釈を曖昧にして玉虫色に仕上げることがときにあります。細かい内容を全て詰める、取り決めることは難しく、締結時に想定していないような事態が将来生じることで解釈を変更することもありえます。実際、この問題については韓国政府の立場も変化しています。戦後70年を超えた現在に至り徴用工訴訟が問題化したことが、まさにこのことを示しています。

 経過を確認すればするほど、結局のところ、徴用工訴訟問題は50年以上前の日韓請求権協定の解釈の問題ではなく現在の日韓の問題なのだと気づかされます。そうだとすれば、国際法の専門家でなくともこの問題について考え、議論を提起することは難しくありません。徴用工問題に対し日本はどう対応したらよいか、日韓関係の今後の方向性など、穀田議員の記事を読んでの幅広いご意見をお待ちしております。

菅原琢

政治学者

1976年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授など歴任。専門は政治過程論。著書に「世論の曲解」、共著「平成史【完全版】」など。戦後の衆参両院議員の国会での活動履歴や発言を一覧にしたウェブサイト「国会議員白書」https://kokkai.sugawarataku.net/を運営。