山本幸三さんの寄稿に一言

不適切統計は「日本ブランド」の危機 改善策は? ご意見募集

江川紹子・ジャーナリスト
  • 文字
  • 印刷
江川紹子さん
江川紹子さん

 「統計」がにわかに脚光を浴びています。

 きっかけは、厚生労働省の毎月勤労統計の不適切な調査。雇用保険や労災保険の過少給付など約2000万人に影響が及ぶほか、そのために予算案を修正し、閣議決定をやり直すという前代未聞の事態も起きました。

 同省の特別監察委員会が慌てて調査を行い、わずか7日で「組織的隠蔽(いんぺい)はない」という結論を出しましたが、この調査にも疑問符がつけられました。厚労省職員の聞き取りには、身内の同省職員が関与し、報告書のたたき台もなんと職員が作っていたことが分かったからです。

 こういう大事な問題の調査は、拙速ではいけません。多くの人が納得できる公正性も大事です。調査はやり直しになりました。まさに「急がば回れ」です。

 昨年も、裁量労働制で働く人の労働時間に関して、厚労省の出したデータの不適切さが問題になったばかり。また、技能実習生が失踪した理由についても、野党議員が元資料を精査した結果、法務省のデータが間違っていたことが明らかになりました。

 そればかりではありません。総務省が、政府が特に重要と位置づける56の基幹統計を調べたところ、半数近い23統計で不適切な手続きミスなどが見つかった、という発表もありました。

 なんということでしょう!

 公文書の隠蔽や改ざんについては、「さもありなん」と思った私でも、こつこつと数字を集め、記録していく統計については、日本は信頼できると思っていましたので、ショックでした。さまざまな企業で検査不正が発覚して、日本のモノづくりへの信頼感が崩れていくのと同じくらいの衝撃。自分が抱いていた、「日本」というブランドが崩れていく感じです。

 言うまでもなく、統計はさまざまな政策立案の基本資料になり、その政策を実施した結果を評価する時の大事な資料にもなります。それがいいかげんということになれば、これは大変なことです。このままでは、日本という国自体が信頼されなくなりかねません。

 もっとも、元地方創生担当相の山本幸三・衆院議員(自民)によれば、日本の統計に関する問題は、昨日や今日始まったことではないようです。この論考では、今回の問題には触れられていませんが、従来の問題点はいろいろ紹介されています。

 たとえば、生産や消費の動向を知るための「四半期GDP(国内総生産)速報」(QE)について、山本氏はこう書いています。

<QEの基となる土台が実はガタガタなのだ。中国のGDP統計を笑っているどころの話ではないのである>

 それは大変!

 何がどう「ガタガタ」なのかは、本文を読んでいただくとして、統計を巡る問題は、1省庁の不始末、政権への「忖度(そんたく)」だけでは語れそうもありません。

 山本氏は、原因をこう分析しています。

<統計改革が遅れたのは、我が国の行政においてこれを利活用する体制が整っていなかったからだ。KKO(勘と経験と思い込み)による政策決定がいかに多いことか、あるいは、まともな統計を作成、活用しようとする慣行がほとんどないことは、最近の裁量労働制や技能実習生の問題等で嫌というほど明らかになったのではないか>

 なので、統計データなどの証拠に基づく政策立案(Evidence-based Policy Making:EBPM)を推し進め、統計データや社会科学の知見に準拠した議論を行っていくことで、必要な統計データの整備や開示を十分に行うようにしようと、山本氏は提言しています。統計の改善と証拠に基づく政策立案推進の関係は、ニワトリと卵の関係、ということのようです。

 なるほど。とはいえ、証拠を十分に活用した政策立案や議論を行おうにも、データが間違っていたり不適切だったりすれば、適切な政策立案も議論もできません。

 山本氏によれば、総務省の統計委員会が主導して各省の1次統計からやり直す取り組みが始まる、とのこと。これはいい機会ではないでしょうか。どうせやり直すなら、よりよい形でやり直してもらいたいものです。

 今回、厚労省など各省庁の基幹統計の不適切な処理については、国会でも取り上げられ、その原因や問題点などは、徐々に明らかになっていくでしょうし、そうしてもらわなければなりません。新聞などのメディアも、それを分かりやすく、詳細に伝えてほしいと思います。

 さまざまな情報を受け止めながら、私たちも考えたいと思います。

 一連の問題をどう受け止めているか。

 なぜ、こんな問題が起きると思うか。

 これによって、どんな弊害が生じるのか。

 どのようなことを重視して、改善策は話し合われるべきか。

 いったいどうすれば、問題は解決すると思うか。

 皆さんのご意見をお待ちしています。

江川紹子

ジャーナリスト

1958年生まれ。神奈川新聞記者を経てフリー。95年、オウム報道で菊池寛賞。著書に「オウム事件はなぜ起きたか」「名張毒ブドウ酒殺人事件」「『歴史認識』とは何か――対立の構図を超えて」(大沼保昭氏と共著)など。ツイッター@amneris84