オアシスのとんぼ

文在寅政権に多いと言われる「主体思想派」とは?

澤田克己・外信部長
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韓国の文在寅大統領=大阪市で2019年6月28日、代表撮影
韓国の文在寅大統領=大阪市で2019年6月28日、代表撮影

 「北朝鮮の実像なんて知らなかったんですよ」

 何の気負いもなく、当然のことのように穏やかな言葉が返ってきた。私は一瞬、どう問い返すべきか戸惑った。

 1980年代後半の韓国学生運動を席巻した大派閥「主体思想派」の創設者で、リーダーだった金永煥(キム・ヨンファン)氏。かつて「鋼鉄」という別名で知られた男性は、そんな雰囲気などみじんも感じさせない穏やかな表情で私に人懐こい笑顔を見せていた。オフィスと住宅が混在するソウル市内の地下鉄駅近くにあるコーヒーチェーン店の2階で平日の昼下がりに向き合った元闘士は、間違っても周囲の注意をひきつけることなどない平凡な中年男性に見えた。

 主体思想派の全盛期だった89年、ソウルへ語学留学した学生時代の私は主体思想派のニュースを見るたびに首をひねっていた。主体思想は、北朝鮮の金日成独裁体制を正当化するための理論である。当時の韓国はまだ先進国水準には遠かったけれど、それでも経済成長にわく活気あふれる社会だったし、2年前に民主化も実現していた。だから、素直に「なんで北朝鮮なんかにあこがれるのだろう」と不思議に思ったのだ。

 しばらく忘れていた疑問を思い出したのは、当時の学生運動リーダーたちが文在寅政権の中核を占めているからだ。文政権は一部の保守派から「主体思想派の政権だ」と攻撃されている。53年生まれの文在寅大統領自身は世代的に違うのだが、周辺に布陣する主体思想派出身者が権勢を振るっているとされる。

 だから、「主体思想派のゴッドファーザー」と呼ばれる金氏に話を聞いてみたくなった…

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澤田克己

外信部長

1967年生まれ。埼玉県狭山市出身。91年入社。ソウル支局やジュネーブ支局で勤務した後、論説委員を経て2018年から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』、『韓国「反日」の真相』、『新版 北朝鮮入門』(共著)など。