ふらっと東アジア

文大統領が「デニー太極旗」にこだわった理由

米村耕一・前ソウル支局長
  • 文字
  • 印刷
韓国国立中央博物館に所蔵されている「デニー太極旗」=同博物館提供
韓国国立中央博物館に所蔵されている「デニー太極旗」=同博物館提供

 10月1日に韓国南部の大邱空軍基地で「国軍の日」記念式典が開かれた。日本では、韓国空軍F15戦闘機が島根県・竹島(韓国名・独島)などの周辺海域を飛行したことを中心に報じられたが、実は式典の中に、気象条件のために中止となり、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「残念」を繰り返して悔しがったイベントがあった。「デニー太極旗」と呼ばれる旗を先頭に特殊部隊が落下傘降下するというものだ。

 文氏は式典直後、空軍将兵たちと共にした昼食会の場で「今回の式典で残念だったのは、『デニー太極旗』を先頭に、朝鮮戦争に参戦した22カ国の国旗を掲げて落下傘降下をする予定が実現しなかったことだ。非常に残念だった」と語った。中止されたのは当日の空には雲が垂れこめ、その高度が平時の安全基準を下回っていたためだが、大統領の思い入れを知る降下チームの特殊部隊員たちは、「どうしても降りたい」と最後まで主張したという。

 デニー太極旗とは、朝鮮国王の高宗が1886年から90年まで朝鮮政府の顧問を務めた米国人、オーウェン・デニーに贈ったものだ。デザインは現在の太極旗とほぼ同じだが、色合いなどに違いがある(写真参照)。韓国人でも誰もが知っているというわけではない旗になぜ、それほど文氏はこだわったのか。

 理由は大きく分けて二つある。一つは米国と韓国の歴史的な関係の深さを強調する意図だ。文氏自身が昼食会で「デニー太極旗は実物が残っている最も古い太極旗であり、韓米の縁の深さ、韓米同盟の堅固さを示す一つの象徴だと考えている。この行事を通じて、韓米同盟そして国連軍司令部への感謝を表現したいと思っていた」と語った。

 8月下旬に韓国政府は、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を表明した。これに対して米国側から不満や懸念の声が伝えられると、韓国内では保守派を中心に米韓関係の先行きを懸念し、政権の判断を批判する声が噴き出した。…

この記事は有料記事です。

残り1814文字(全文2614文字)

米村耕一

前ソウル支局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長などを経て2018年から外信部副部長。著書は「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。