「日本の不当な経済制裁を撤回させなければなりません!」「日本は真の謝罪をし、反省しろ!」
2019年8月14日正午すぎ。慰安婦を象徴する少女像の建つソウルの「日本大使館前」には、日本批判の大きな声が響いていた。だが、集会を見る私はむなしさを感じていた。
熱気がなかったわけではない。ざっと数えると参加者は1500人ほどにはなりそうだ。安倍晋三首相を批判する「NO安倍」というTシャツを着た人たちの姿も目立った。この日は韓国で国の記念日に指定されてから2回目となる「慰安婦の日」であり、毎週水曜日に行われる「水曜集会」の1400回目という節目でもあった。さらに、日本政府による対韓輸出規制強化が7月に発表されたことへの反発もあって、日本批判の声には力がこもっていた。いつもの水曜集会は数十人規模なのだが、もともと学生たちが参加しやすい夏休みである上にいくつもの要因が重なって人数が膨れ上がったようだ。
いくら声を上げたって安倍首相が耳を傾けるはずがない。むなしいというのは、そんな理由ではない。彼らが糾弾している「日本」がそこに見当たらないことに違和感を覚えたからだ。集まった人々の怒りをぶつけるべき物理的な対象物として「日本を代表する何か」がそこにあるべきなのだろうが、そんなものはないのである。
壇上に上がった政治家や運動家が呼びかけ、参加者が大きな声で唱和する日本批判はもともと、日本を対外的に代表する大使館に向けて発せられていた。水曜集会を主催する「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連、旧韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会=挺対協)」は、そのために30年近く前から日本大使館前での水曜集会を重ね、そこへの少女像設置を強行したはずだった。
だが、もはやそこに日本大使…
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澤田克己
論説委員
1967年生まれ。埼玉県狭山市出身。91年入社。ソウル支局やジュネーブ支局で勤務した後、論説委員を経て2018年から外信部長。2020年4月から再び論説委員。著書に『「脱日」する韓国』、『韓国「反日」の真相』、『反日韓国という幻想』、『新版 北朝鮮入門』(共著)など。