マラソン、競歩を札幌で開催? もはや東京五輪とは言えない混乱ぶり

初鹿明博・衆院議員
  • 文字
  • 印刷
初鹿明博衆院議員=須藤孝撮影
初鹿明博衆院議員=須藤孝撮影

変更すべきは会場ではなく開催期間

 10月16日、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が、東京五輪のマラソンと競歩の会場について、「IOC理事会と大会組織委員会は、札幌市に移すことに決めた」と衝撃的な発言をし、関係者のみならず東京での五輪開催を楽しみにしていた国民に驚きをもたらしました。

 その後の経過を見ていると、開催都市である小池百合子知事がいくら異論を言おうが、どうやら札幌に決まりとなりそうな情勢です。

「東京五輪」と言えるのか

 マラソンといえば最終日に行われるオリンピックにおける最大のメインレースです。レースの感動をそのまま閉会式に持ち込んで次の開催地にバトンを渡すというのが、これまでの五輪大会の定番だったと思います。

 そのメインレースが開催都市・東京とははるか離れた800キロ北の札幌で行われる……。これはもはや、東京五輪とは言えないのではないでしょうか。

 近年の東京の真夏の暑さに加え、現在、組織委員会が示している熱中症対策の心もとなさを考えると札幌で開催したくなる気持ちは分からなくはありません。しかし、2009年、 広島市と長崎市が広島・長崎オリンピック構想を表明したことに対して、IOCは却下したではないでしょうか。そのIOCが東京都からはるか離れた札幌でのマラソン、競歩の開催を提案するとは一貫性が無さすぎます。

暑さを甘く見た

 しかも、東京五輪はコンパクトな五輪を売り物にして選手村を中心に半径8キロ圏内に85%の競技会場を配置したことも開催都市に決まった重要な要素であったはずです。IOCもそこを評価していなかったでしょうか?

 そもそも混乱の要因は、東京の夏が暑いことは招致の時点から分かっていたにもかかわらず、開催前年の今年まで熱中症対策について真剣に考えてこなかったことにあります。

 マラソンや競歩が炎天下で長時間行わなければならない競技であることから抜本的な対策として東京以外での開催しかないと判断したのでしょうが、他の競技は大丈夫だとは言えません。

 そして、熱中症に気を付けなければならないのは出場する選手だけではありません。確かに選手が暑さによって普段通りのパフォーマンスを発揮できないのでは大会として瑕疵(かし)があるといわざるをえないので選手への配慮を最優先すべきだとは思います。

 しかし、選手は日ごろから厳しい練習に励み、人並外れた優れた体力を持っていますが、観客や会場の警備などにあたるスタッフは違います。選手が大丈夫だとしても観客やスタッフは大丈夫ではありません。つまり、マラソンと競歩を札幌で開催したからといって、猛暑の東京で開催する熱中症リスクは変わらないのではないでしょうか。

 東京五輪の開催期間は20年7月24日から8月9日です。今年のこの期間の最高気温は表の通りです。

 連日31度を超えています。

2019年7月24日~8月9日の最高気温
2019年7月24日~8月9日の最高気温

 東京五輪の暑さ対策でも参考にするとしている環境省発行の「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン」で熱中症の危険度を示す「暑さ指数」では28度から31度で「厳重警戒(激しい運動は中止)」、31度以上で「運動は原則中止」となっています。

 この暑さ指数でも今年は17日間の開催期間のうち14日で原則運動中止の31度を超え、残りの3日も厳重警戒の28度以上です。

 この現実からして、マラソンと競歩だけの問題ではないということはご理解いただけるだろう。

「立候補ファイル」には、この時期の天候は「温暖」「理想的な気候」

 では、このような猛暑は今年始まったことなのでしょうか。東京五輪を招致する際の立候補ファイルには「2020年東京大会の理想的な日程」という項目があり、「この時期の天候は晴れる日が多く、かつ温暖であるためアスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」と記載されていました。もう一度繰り返します。

 「この時期の天候は晴れの日が多く、温暖」「アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる」「理想的な気候」

 今年の夏を振り返れば、どれも当てはまらない。立候補ファイルを作った11年やその前年の10年はどうだったのでしょうか?

 まず、この2年間の最高気温は以下の表です。

2010年7月24日~8月9日の最高気温
2010年7月24日~8月9日の最高気温
2011年7月24日~8月9日の最高気温
2011年7月24日~8月9日の最高気温

 30度を切る日もあり、今年と比較すれば暑くないとなりますが、決して「温暖」ではありません。

 「暑さ指数」も調べてみたところ、10年においては、原則運動中止となる31度を超える日は2日、厳重警戒の28度超えは2010年で15日間。2011年は31度超え1日、28度超えは6日間ありました。

 今年ほどではないとしても、「気候が温暖で」「アスリートが最高の状態でパフォーマンスが発揮できる」とはとても言える気候ではありません。

 招致を実現したいがためにウソをついたとは言いません。しかし、暑さ対策を甘く見て、軽視していたのは間違いないでしょう。だから、都民の感覚からすると違和感しかない「理想的な気候」という表現を用いて招致を実現してしまったのです。

 招致の際に東京の猛暑が課題だとしていたら結果は異なっていたのでしょう。しかし、招致が決まり、来年には開催しなくてはならないのです。

朝顔で暑さは和らぐのか?

 熱中症で観客やスタッフ、そして選手がバタバタと倒れる最悪の事態にならないように万全の暑さ対策を行わなければなりません。

 しかし、残念ながら現在組織委員会が打ち出している暑さ対策は心もとないどころか、それは意味があるのかというものも多く含んでいます。このまま開催して大丈夫なのか不安しか残らないひどいものです。

 例えば、この夏のテストイベントで行われた人工雪を降らせるという実験。雪を暑い中で降らせば、解けることは誰でも分かります。結果、観客はびしょびしょになってしまいました。

 入場時に手荷物検査を行うため待つ時間が長くなります。炎天下、長時間並んでいる観客を気分だけでも涼しくしようと列の仕切りに朝顔を並べるそうです。

 体温を下げる効果はないが、視覚的に涼しいからだと言います。涼を感じるものは何でもやると誇らしげに言うが、気温が下がらなければ熱中症は防げず、全く意味がありません。しかも、朝顔を知らない外国人は涼しいとも思わないでしょう。朝顔を購入するお金があるなら、他の対策に回せと思います。

開催日程の変更こそやるべきことだ

 以上のことを考えると一部の競技を札幌で開催すれば済む話ではなく、開催日程を秋に変更する以外に方法はないと断言します。

 秋に開催できない理由が米国のテレビ会社の放映権料の問題だとか欧州のサッカーリーグにぶつからないようにするためだとか言われていますが、アスリートファーストの大会を目指すなら、真夏の開催はやめるべきだと思います。これは今回の東京に限ったことではありません。

 昨今、日本よりも緯度が高い欧州各国でも異常気象により尋常ではない猛暑となっています。この事態を考えるとこのままでは真夏に安全に五輪を開催できる国が限られてしまいます。もはや、真夏に五輪を行うことに無理が生じているのではないでしょうか。

 話を20年東京五輪に戻します。来年の東京五輪をずらす場合、パラリンピックの日程はそのままにして、先にパラリンピックを行い、その後にオリンピックを行うという日程にしたらどうでしょうか。

 パラリンピックを先に行った方が、五輪の後よりも国民の関心が向くのではないかと思うからです。

 そして、もうひとつ考えておかなければならないことは台風対策です。今年の台風の度重なる上陸を考えると無視することができない課題です。

 現状の日程では仮に台風で競技が行えない日があると日程が詰まっているため、ほぼ延期はできません。7月も8月も台風が来る可能性があることを考えると、大会が始まってから、試合をやらずにくじ引きで勝者を決めるとか、引き分けにするとか、出場者もファンも納得できないような対応で混乱する事態になることが目に見えています。

 最初から4日間から7日間の予備日を設けて開催日程を決めておくことで混乱や不満を取り除くことができるでしょう。開催日時を変更してしまうと既に販売してしまったチケットの振り替えや払い戻しが必要になり大変だとは思いますが、それはやろうと思えばできることです。

 確かにその結果、チケットを確保できていた競技が見られなくなってしまう不満は出るでしょう。しかし、選手はもとよりチケットを買って観覧に行く観客の皆さんの健康を考えての結果だとご理解いただくしかないと思います。

 開催都市である東京都、組織委員会、そして政府は東京五輪で、選手はもちろんのこと観客やスタッフも含め、一人も熱中症による重篤な健康被害が出ることがないよう、一部の競技の開催を札幌に変更するというイベントの趣旨に反するような小手先の対策ではなく、開催期日を本当に温暖で選手が最高のパフォーマンスを発揮できる季節に変更することをIOCに提案し、具体的な交渉を始めるべきだと思うがいかがでしょうか。

 <政治プレミアトップページはこちら

初鹿明博

衆院議員

1969年生まれ。衆院議員秘書、東京都議を経て、2009年衆院初当選。比例東京、当選3回。立憲民主党。