麗しの島から

デモ続くうちは辞任できない?香港行政長官の窮地

福岡静哉・台北特派員
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記者会見する林鄭月娥行政長官。会見では辞任を否定している=香港政府で2019年10月15日、福岡静哉撮影
記者会見する林鄭月娥行政長官。会見では辞任を否定している=香港政府で2019年10月15日、福岡静哉撮影

 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は10月23日、中国政府が香港政府トップの林鄭月娥行政長官の更迭を検討していると報じた。果たして林鄭氏は辞任に追い込まれるのか。中国政府と香港政府の思惑を踏まえながら、今後のシナリオを占ってみた。

辞任したくても辞任できない?

 FT紙は「中国政府が林鄭氏を更迭し、来年3月までに後任の『暫定長官』を任命することを検討している。暫定長官が2022年6月までの林鄭氏の残り任期を務める」と報じた。

 中国外務省の華春瑩報道局長は23日の定例記者会見で「下心のある政治的デマだ」と否定した。林鄭氏も29日の記者会見で「中国政府は一貫して香港政府と私を支持している」と述べた。ただ、林鄭氏は8月にあった財界関係者との会合で「もしも選択肢があるなら、(市民に)深く謝罪したうえで辞任する」と述べている。会合の録音内容をロイター通信が入手して9月上旬に報じ、林鄭氏はこの録音が自身のものであることを認めている。

 香港政界では、行政長官の進退についてはその任免権を握る中国政府に事実上の決定権があるとの見方が一般的だ。林鄭氏が辞任すればデモ隊に追い込まれたとの印象を強く与える。それは習近平指導部のメンツをつぶすことにもなる。「辞任したくてもできない」というのが林鄭氏の本音なのかもしれない。

 では、仮に辞任すれば、後任の選出はどのような手続きになるのか。香港の憲法に当たる香港基本法の53条は、行政長官が空席となった際は「6カ月以内に新しい行政長官を選出しなければならない」と定める。辞任から新長官の就任までは、ナンバー2の政務官が長官代行を務める。新長官は中国政府の任命によって就任し、辞任した前長官の残り任期を務める。

これまでに任期途中の辞任は1例だけ

 1997年の中国返還後、行政長官が任期途中に辞任したのは董建華長官の1例だけ。董氏は2003年、中国を転覆させる行為を禁じる「国家安全条例」の制定を試みたが、50万人が参加したとも言われる大規模な反対デモが起きて撤回に追い込まれた。その後、「足の痛み」を理由に05年3月、任期途中で辞任。世論では事実上の更迭と受け止められた。6月に補選があり、曽蔭権氏が無投票で当選。07年6月までの董氏の残り任期を務めた。

 FT紙は後任人事として、香港金融管理局(中央銀行)前総裁の陳徳霖氏と元政務官の唐英年氏の名があがっていると報じ…

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福岡静哉

台北特派員

1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。