潮流・深層

急襲作戦で浮かぶ米の危機 トランプ氏で失う外交資産

古本陽荘・北米総局長
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トランプ米大統領=高本耕太撮影
トランプ米大統領=高本耕太撮影

 米軍の急襲作戦により、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が死亡した。一時はシリアやイラクに広大な支配地域を築き、外国人や他教徒の首をはねて殺害するなど残忍さで知られた組織の創設者だけに、対テロ戦争の文脈では大きな成果であることは疑いようがない。

 ただ、トランプ米大統領自らがバグダディ容疑者死亡の詳細をテレビ演説で説明する姿には違和感を覚えた。自身の失点を覆い隠すパフォーマンスの色彩が色濃かったためだ。

 テレビ演説でトランプ氏は「バグダディ(容疑者)を捕捉するか殺害するかは、私の政権の安全保障上の最重要課題だった」と豪語した。

 本当にそういう意識を持っていたのだろうか。米陸軍の特殊部隊デルタ・フォースの精鋭たちにとっても今回の急襲作戦は相当、難易度の高い作戦だった。そして、難易度を上げたのは、シリア北部から米軍を撤収させてしまったトランプ氏だ。シリア軍やロシア軍が侵攻している地域で、目立たないように大型ヘリ8機が低空飛行し、現地に向かった。事前にロシアやトルコには連絡をしていたが、現場で不測の事態が起きて撃墜される恐れは最後まで消えなかったはずだ。

 トランプ氏は「2週間にわたり、彼(バグダディ容疑者)を監視していた」と説明した。急襲作戦は10月26日なので12日ごろからということになる。これに先立つ6日にトランプ氏はトルコのエルドアン大統領に電話し、トルコ国境沿いのシリア北部の米軍特殊部隊50人程度を撤収させると伝えた。エスパー国防長官にシリア北部から米軍をすべて撤収するよう指示したのは12日だ。この間、バグダディ容疑者確保の作戦を優先させようとした形跡はない。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、実際にバグダディ容疑者がシリア北西部イドリブ県バリシャに潜伏しているという情報は夏に入り、大統領にも報告が上がっていたという。つまり、安全保障上の最優先事項であるはずのバグダディ容疑者の身柄確保の可能性があることを知りながら、その作戦を困難にするシリアからの米軍撤収を命じていたことになる。作戦が成功したため、最優先課題に繰り上げたと見る方が自然だろう。

トランプ氏のついた大うそ

 さらに、トランプ氏はテレビ演説で決定的なウソをついていたようだ。バグダディ容疑者を追い詰めた情報…

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古本陽荘

北米総局長

1969年生まれ。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)