
英国では12月12日に、ブレグジット(英国の欧州連合=EU=からの離脱)の方向性を決める総選挙が実施される。与党・保守党、最大野党・労働党の2大政党をはじめ、各党がブレグジットに対する方針や見解を示し、選挙戦を展開中だ。
ブレグジットを英国の「政界歴史地図」に落とし込んで考えてみると、半世紀前の英政界で異彩を放った2人の政治家の影が浮かび上がってくる。保守党のイノック・パウエルと労働党のトニー・ベン。2人とも当時の政界では両極に位置し、互いに際立った個性で強い存在感を誇示した「異端」とも言える政治家だ。
ブレグジットの背景を探る際に、この2人に着目するというのは私のオリジナルではない。英国王立歴史学会フェローで勅選弁護士のエイドリアン・ウィリアムソン氏が、最近出版した「Europe and the decline of social democracy in Britain from Attlee to Brexit(欧州、そして英国における社会民主主義の衰退。アトリーからブレグジットへ)」の中で、欧州統合への参加機運が強まった1960、70年代の英国で、これに強く異議を唱え続けた人物としてこの2人を挙げている。この本の内容とウィリアムソン氏への私のインタビューに沿って、ブレグジットと2人の関係を考察したいと思う。
英国の社会民主主義と欧州志向
第二次大戦で大陸全土が荒廃した戦後の西ヨーロッパでは、社会民主主義的な政治が広がった。社会主義陣営には属さず自由主義経済を是とする西ヨーロッパであっても、国民生活の救済が最優先となり、国家が介入し、計画的に経済復興を進めようという動きが強まったためだ。
ウィリアムソン氏は同書で、英国も同様だったことを強調する。戦後すぐには労働党アトリー政権が、一時は英国の代名詞ともなった「ゆりかごから墓場まで」の高福祉社会を実現した。その後に政…
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服部正法
欧州総局長
1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。