金委員長は焦っていない 狙いは北朝鮮流「非核化」

坂井隆・北朝鮮問題研究家
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北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年3月
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年3月

 北朝鮮の「非核化」をめぐる米朝交渉は、一進一退が繰り返され不透明感が強まっている。ミサイルの発射や高官の強硬発言、国務委員会スポークスマン談話などを受け、北朝鮮の交渉姿勢に疑問を呈する向きがある一方、韓国情報機関は金正恩朝鮮労働党委員長が12月の首脳会談開催を目指しているとみているとの報道もある。

 金委員長は米国との交渉をいかに進めようとしているのか、その交渉戦略を検討したい。

 結論から述べると、少なくとも現時点において、金委員長が米朝交渉を完全に決裂させ、米国との全面的な対決状態に入ることを想定しているとは到底考えられない。

 その最大の根拠は、今、北朝鮮指導部にとって最大の取り組み課題が経済建設であるからである。とりわけ来年は、金正恩政権発足後初めて打ち出した「国家経済発展5カ年戦略」の最終年に当たる。重点となる建設対象には人民軍部隊が大量に動員・投入されている。まさに国を挙げた取り組みである。

 米国との全面対決状態となれば、このような取組みはできなくなる。このところ一部に「緩み」が指摘されている国連の経済制裁も、そうなれば改めて厳格に履行されることになろう。

 また、上述の重点建設対象の多くが大規模な観光リゾート地区であることにも留意すべきであろう。仮に対外的な緊張状態が激化すれば、それら地区への海外からの観光客誘致は困難になるしかない。

 一方、最近の高官による対米強硬発言、スポークスマン談話などは、国内向きの「労働新聞」などではほとんど報じられていない。国民に対米警戒心を鼓吹していたかつての紙面とは大きく様変わりしている。

 一連の各種短距離弾道ミサイル開発についても、命中精度の向上が強調されていることなどから通常弾頭の搭載を前提にしたものと判断でき(核弾頭であれば、その威力からさほどの命中精度は不要であろう)、それら兵器群の配備によって、これまで核兵器が担ってきた抑止…

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坂井隆

北朝鮮問題研究家

1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など