香港の街頭で11月16日、中国人民解放軍の駐香港部隊が清掃活動をし、物議を醸した。法律で出動の要件として規定された政府の要請がないまま、出動したためだ。しかも兵士の中には、中国本土に駐留するはずの特殊部隊のシャツを着用した兵士がまぎれていた。
清掃の目的は「騒乱を防ぐ」こと?
16日午後4時半ごろ、香港・九竜半島の九竜塘地区の住宅街に約50人の屈強な男たちが現れた。隊列を組み、小走りで進むその手には、ほうきやスコップなどが握られている。近くにある人民解放軍九竜塘基地の兵士らだ。多くの兵士は、カーキ色のTシャツと緑色の半ズボン姿。武器なども一切身に着けていない。
路上にはたくさんのレンガが散らばっていた。政府への抗議デモをする若者らが手製の「武器」として使おうと、手当たり次第に道路のレンガをはがしたためだ。車道と歩道を仕切る鉄柵も取り外され、バリケードのように積み上げられている。兵士らは、こうした路上の障害物をてきぱきと片付け、道路をきれいに掃きあげていった。
中国の特別行政区である香港には「高度な自治」が認められているが、外交・防衛は中央政府の管轄だ。1997年に香港が英国から中国に返還された際、人民解放軍は香港に進駐し、現在は19の軍関連施設に陸海空で計6000人以上が駐留するとされる。
香港の憲法に当たる香港基本法は、「社会治安の維持」「災害救助」を目的として香港政府が要請した場合に限って、解放軍が出動できると定める。ところが今回は、香港政府が出動要請をしていないのに、解放軍の兵士が「清掃」目的で街頭に出た。香港政府の報道官は「純粋な自発的行為だ」と説明したが、民主派は「基本法違反だ」と強く反発した。
軍を出動させた中国の狙いについて、主に3通りの解説が出ている。一つ目は、軍に親しみを持ってもらい、香港への貢献をアピールすることだ。中国・香港政府に近いメディアは軍の出動について「市民が拍手して感謝した」「市民と共に心を一つにし、力を尽くした」などと好意的に報じた。
二つ目は「出動を次第に既成事実化していくのではないか」との懸念だ。人民解放軍は市民の抵抗感に配慮し、一貫して表舞台での活動を控えてきた。返還以来、初めて出動したのは昨年10月。台風の復旧作業をするとの名目で、やはり政府からの要請がないのに「自発的」に出動した。今回は2回目だ。
そして三つ目は「威嚇」だ。「清掃」は、6月から続く政府への抗議デモがエスカレートし、警官隊と若者らが大学キャンパスなどで激しい衝突を続けているさなかに起きた。香港メディアが撮影した映像を見ると、兵士らは清掃をしながら、記者たちに「香港では、暴力を止め、騒乱を防ぐことが全員の責任だ」「我々の目的は香港を安全で安定した場所にすることだ」などと答えている。清掃とは関係のない発言であり、デモ隊に対する威嚇がにじんでいる。
香港にいるはずのない特殊部隊
清掃活動には、背中に「雪楓特戦営」と書かれた青色のシャツと、「特戦八連」と記されたオレンジ色のシャツを着た兵士も参加していた。香港メディアの解説によると、「雪楓特戦営」は…
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