金正恩委員長の内なる「戦争」染みついた官僚主義と失われる公共心

坂井隆・北朝鮮問題研究家
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北朝鮮の金正恩朝鮮労働委員長
北朝鮮の金正恩朝鮮労働委員長

 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、世界の超大国・米国との交渉を有利に展開すべく腐心しているが、それ以上に苦戦を強いられているのがお膝元の幹部や一般住民の意識・態度などに起因する国内の諸問題への対応である。

 金委員長は、2016年の第7回党大会で「(幹部の)職権乱用と官僚主義、不正腐敗行為との戦争」に言及し、その後も、北朝鮮メディアが同様の表現を繰り返している。しかし、今でも党機関紙「労働新聞」が学校教員に対してまで「生活上の隘路(あいろ)を理由に自分の良心を打ち捨て私心に目が眩(くら)む」ことを戒める記事を掲載(10月21日付)しており、不正腐敗は、むしろ各層に蔓延(まんえん)していると考えられる。

 金委員長は、幹部の消極的、形式的な働きぶりについてもかねて批判しており、最近も「現地指導」先で、そのような「現実」に対する「もどかしさ」を吐露している(11月19日報道)。批判対象となっているのは、「(目標を示されても)スローガンでも叫び、会議を開いてよしとする」、問題が生じても「拱手(きょうしゅ)傍観」して主動的に対策を講じない、といった幹部の態度である。長年にわたり身についた幹部の意識改革は容易ではなさそうである。

 一般人民の意識、行動様式なども、北朝鮮指導部の悩みの種となっている。「労働新聞」によれば、「革命的鍛錬が不足した新世代」は、既に社会の主力となっているが、「社会主義信念が動揺し資本主義に対する幻想」を抱きかねない存在と目され、それへの対応が「今日、一層切迫した重要な問題として提起されている」(11月17日付)。

 また、「家事よりも国事を重視する」べきだとの主張が繰り返されており、人々の公共心が希薄化していることがうかがえる。さらには「家庭道徳をしっかり守る」ことが課題となり、「父母の健康と生活に対し格別の関心と神経を使うのは、子供たちの当然の本分で…

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坂井隆

北朝鮮問題研究家

1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など