東南アジア探訪記

インドネシア 強まる性的少数者への攻撃と「表現の自由」の戦い

武内彩・ジャカルタ特派員
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裁判所の決定後、「学生の声を消すな」「国は表現の自由を保障していない」などと書かれた横断幕を掲げて抗議する学生ら=国立北スマトラ大学周辺で、ヤエル・シナガさん提供
裁判所の決定後、「学生の声を消すな」「国は表現の自由を保障していない」などと書かれた横断幕を掲げて抗議する学生ら=国立北スマトラ大学周辺で、ヤエル・シナガさん提供

 インドネシア・北スマトラ州のメダン行政裁判所で11月中旬、大学のウェブメディアの学生編集委員が学長から不当に解任されたと訴えた裁判があった。レズビアンを主人公にした短編小説を執筆し、掲載したことで解任されたという。裁判官は「性的少数者(LGBTなど)を扱った小説には賛否があり、社会に混乱をもたらした。表現の自由は守られるべきだが、従うべき社会規範がある」として、学生の訴えを退けた。イスラム教徒が大多数を占めるインドネシアでは、LGBTは「タブー視」される。

 国立北スマトラ大学(USU)3年のヤエル・シナガさんは3月12日、主人公の女性が自身のアイデンティティーを認識し、女性に恋をするという内容の短編小説を執筆し、自身も編集委員を務める「Suara USU」に投稿した。ヤエルさんがLGBTに関する作品を書いたのは初めてだった。

 作品の内容を知った大学側が「LGBTを助長し、わいせつな内容を含む」と問題視し、学生18人からなる編集委員会に対して削除を求めた。ヤエルさんは編集長らと一緒に大学側に理解を求め、削除を拒否した。

 ヤエルさんは当時、毎日新聞の取材に「退学処分になる不安はある。それでもLGBTを題材にすることが間違っているというのはおかしい。表現の自由を制限されたくない」と話していた。削除に応じるつもりはないと強気だった。

 ところが、その直後に学長が、小説掲載でポルノを拡散したとして、編集委員の解任を命じ、部室を閉鎖した。学長側は新たに別の編集委員を任命し、学長室近くに新たな部室を用意したという。ヤエルさんらは7月、解任は不当だとして提訴に踏み切った。18人はみな在学生で、裁判中も通常通り授業を受けていたが、ヤエルさんに「学業に集中すべきだ」と忠告する教授もいたという。

 裁判では小説家や、報道の自由の尊重を訴える「インドネシアプレス評議会」メンバー、人権活動家らが証言台…

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武内彩

ジャカルタ特派員

1980年生まれ。2005年に毎日新聞に入社、神戸支局を振り出しに大阪社会部の在籍が長かった。東南アジア好きは学生時代のフィリピン留学以来。担当地域はインドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、オーストラリアなど。