潮流・深層

トランプ氏、軍規律も破壊 米大統領選での再選を優先

古本陽荘・北米総局長
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海軍シールズ隊員の不祥事問題に介入し、海軍上層部の処分を覆したトランプ大統領=米ワシントン・ホワイトハウスで2019年11月25日、AP
海軍シールズ隊員の不祥事問題に介入し、海軍上層部の処分を覆したトランプ大統領=米ワシントン・ホワイトハウスで2019年11月25日、AP

 トランプ米大統領と意見が対立したスペンサー海軍長官が先月、エスパー国防長官により更迭された。焦点となったのは、戦地での不祥事疑惑で逮捕された軍人の取り扱いだった。背景は複雑だが、来年の大統領選で再選を狙うトランプ氏が保守系FOXニュースとタッグを組んで、厳しい処分を求めた海軍上層部の意向を覆したというのが真相だ。軍と政治の関わり方を考えるうえで、禍根を残すものとなりそうだ。

 問題の中心人物は、海軍の精鋭部隊ネイビー・シールズ(SEALS)のエドワード・ギャラガー兵曹長(40)だ。イラクなどの戦地に8回派遣されたベテランで、「ブレード(刃)」というあだ名で呼ばれることもあったという。

 2017年前半にイラクのモスル近郊にいた際、捕虜だった過激派組織「イスラム国」(IS)の負傷兵の首や体をナイフで刺して殺した疑いがもたれた。この事件の後、実際にギャラガー氏はカリフォルニア州にいる友人に、片手にナイフを持ち、もう片手で死んだ捕虜の頭を持ち上げている写真を送っていた。「俺のナイフで仕留めた」と殺害を認めるようなメッセージも添えられていた。また、ギャラガー氏のいた場所の方面からの銃撃で、花柄の模様のヒジャブをかぶった女子学生が撃たれたという証言もあった。こうした報告が海軍に上がり、ギャラガー氏は18年9月に殺人罪などの容疑で逮捕された。

 ところが、軍法会議で真相を明らかにするのは容易ではなかった。ギャラガー氏は全面的に容疑を否認。シールズ内部から、精神的に不安定だった当時のギャラガー氏に関する証言が得られた一方、「捕虜を殺したのは自分だった」と突然、衛生兵が「自供」し、軍法会議は混乱した。真相究明は進まず、結局、ギャラガー氏は、殺人罪などの重罪には問われず、遺体と写真を撮るという軍の規則に違反した罪でのみ有罪となった。また、軍事法廷は、階級を兵曹長から、一等兵曹に格下げするよう命じた。

大統領とFOXニュースが介入

 アフガニスタン戦争とイラク戦争を軸とした米軍の対テロ戦争が「ロング・ウォー(長い戦争)」と呼ばれるようになって久しい。派遣される米兵は疲弊し、エリート部隊であるシールズでさえ、不祥事が多発するようになった。こうした事態に対応しようと、シールズの綱紀粛正に乗り出したのが海軍の特殊部隊を統括するグリーン少将だった。規律重視の改革に対し、「戦地ではきれい事ばかりでは戦え…

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古本陽荘

北米総局長

1969年生まれ。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)