
日本は社会保障など多くの社会的課題を抱えている。本来であれば行政が解決に乗り出すべきものだが、多様化する課題の全てを行政だけで解決するのは困難だ。むしろ社会全体で取り組むべきだ。これは持続可能な開発目標(SDGs)のコンセプトにも通じる。逆に言えば、令和の時代、「課題先進国」となる日本は、官民協働社会への構造転換を果たさなければ、持続可能とはならない。社会をアップデートする必要がある。
そうした中、多くの若者が、一般企業に就職するよりも、社会貢献や社会の共通価値を創り出す活動を志向し、社会起業家として課題解決を目指すようになってきた。豊富な経験を持つアクティブシニア層も同様だ。更に社会起業家を育成する団体の活躍も目覚ましく、成功事例も多くなってきた。
明確なコンセプトと斬新なアイデアによる社会変革
例えば国民の健康維持と社会保障医療費の増大は大きな社会的課題だ。個人にとって健康であり続ける方が当然幸福で、社会にとっては医療保険制度の持続可能性も高まる。そのため予防医療の重要性は以前から指摘されていた。
しかし政府がいくら旗を振っても、現状健康に問題を抱えていない人を意識的に健康づくりに取り組ませるのは容易ではない。それは健康な人の健康維持インセンティブが低いか、見える化されていないためだ。
そこにビジネスシーズを見いだし、資金の循環構造を変え、予防医療の在り方に革新を起こそうと活躍する社会起業家がいる。医療の世界だけではない。高齢者ケアや育児支援、スポーツ、過疎地域支援、街づくり、教育支援、環境対策など、マーケットニーズから取り残された社会的課題に対して、明確なコンセプトと斬新なアイデアで社会変革を目指している。
明確なビジネスモデルと堅実な事業ガバナンスとそれらの透明性が必要だ
しかし、社会的課題解決の善意を装った悪質業者を見逃してはいけない。悪質か否かは、経営実態が透明であれば見分けることは可能だ。逆に言えば透明でなければ悪質と見なしてもよい。そうした業者を締め出す社会システムが必要だ。
一方で、真に社会的意義をもつ社会的事業が成功を収めるためには、漏れなく関係者や地域の合意形成が極めて重要になる。しかし多くの場合、非常に長い時間を要する。なぜなら、社会的課題とは、ある種の社会不合理であり、それをビジネスにしようとすると、うがった見方をされる場合があるためだ。
合意形成に長い時間がかかると、事業の縮小を余儀なくされ、運転資金の調達が困難となる。行政の補助金を頼ると、一般的に事業が硬直的となり、結果的に補助金依存体質という悪循環に陥る場合が多い。
悪徳業者を締め出し、本物を育てるため、社会起業家には、明確なビジネスモデル、堅実な事業ガバナンス、そしてその透明性が求められる。更にそれらにより民間の資金を呼び込み、社会性と事業性を両立させうる持続可能な社会的事業エコシステムを構築することが求められる。こうした本物を育てる環境整備が必要だ。
社会性認証、情報基盤、資金調達といった環境整備が急務だ
そのためにまずは社会性認証の仕組みが必要だ。平たく言えば、良い会社を認証する仕組みで、二つのアプローチが必要だ。一つは相対評価。事業者自ら目標を宣言し、その頑張りを第三者が複眼的に評価する手法。もう一つは絶対評価。特定の団体が認証を与える手法だ(例えば諸外国では広く認知されている「B Corp」など)。合意形成や悪質業者のスクリーニングにも資する。
行政や公的団体による社会的課題の情報基盤整備も必要だ。どのような課題が社会に眠っていて、データで見るとどのような状態なのかを、定量的かつ俯瞰(ふかん)的に理解できるデータセットをリスト化して公表する努力が必要だ。社会的起業を喚起できるばかりか、これも合意形成における共通基盤に資する。
資金調達手法も重要だ。単純な補助金ではなく、民間資金を呼び込める仕組みが必要だ。SIB(Social Impact Bond)という民間出資をベースとした仕組みがある。事業者の目標達成度合いに応じて行政が出資者に補助金を給付するのが基本構造で、税金の効率的執行の観点からSIBに取り組む自治体も増えてきた。関係者全員で支える仕組みにしていくことが必要だ。
その他、人材の獲得支援や規制改革など、なすべき環境整備の幅は広い。実情に合わせて不断の努力を続ける必要がある。
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