非常中国

「2億人」の不眠症 ストレス大国・中国に広がる病理

浦松丈二・中国総局長
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夜光族が集まる北京市の繁華街・三里屯=浦松丈二撮影
夜光族が集まる北京市の繁華街・三里屯=浦松丈二撮影

 中国で今年の新語・流行語大賞を選ぶとすれば、「996ICU」は有力候補だ。午前9時から午後9時まで週6日間の激務で倒れてICU(集中治療室)に送られるという、ブラック企業勤務を言い表した新語だ。

 「夜光族」も候補だろう。夜間にインターネット通販や出前サイトを利用する若者たちのこと。その夜光族に便乗するかのように、中国政府は24時間営業の拡大など「夜間経済(ナイトタイム・エコノミー)」活性化を打ち出している。

 こうして夜中まで働くことが当然になった中国では、ストレスなどから2億人が不眠症(睡眠障害)に悩まされているという。「眠れぬ夜」が流行語になってしまいそうな不眠大国の実態とは……。

職場で打ち明けられぬ悩み

 午前3時、中国南部・広州市の英会話教師の女性(31)はまた眠れぬ夜を過ごしている。熟睡しなければと思えば思うほど眠れなくなる。起き出して、ミルクを2口飲み、枕にアロマをスプレーしてみる。

 「薬に頼りたくないから、いろいろ試してきたけれど、どれも私には効果がないみたい」。女性はアイマスクや音楽、耳栓、高級枕などさまざまな睡眠補助グッズを試してきたという。

 「ぐっすり眠れなくなって3カ月。原因は一つではないけれど、仕事上のストレスが大きいと思う」と女性。大学で英文学を学び、英会話教室に就職した。教師だけでなく生徒募集などの仕事もして、毎年昇給も勝ち取ってきた。ところが、自分の生徒4人の親が学費値上げに抗議して授業料を滞納してしまった。取り立ての役目は教師である女性に回ってきた。

 女性は「自分の生徒の親から取り立てるようなことはやりたくない。支払わないと教えないというのはもっとイヤ。どうすべきかと考えると眠れなくなる」と打ち明けた。

 不眠に悩んでいることは職場の同僚や上司には打ち明けていない。契約更新などのマイナス材料になるからだ。

仕事上のストレスが原因最多

 当局が公表している不眠症関連のデータは少ない。中国政府が7月に発表した中長期計画「健康中国行動(2019~2030)」の中に、2016年の「不眠症患者」は人口比で15%との記載がある程度だ。計算上は2億人以上にもなるが、具体的な内訳や調査方法も書かれていない。しかも計画に盛り込まれた30年の達成目標は「(不眠症)上昇の流れを緩める」と弱気だ。不眠症の対策を投げているようにみえる。

 さらに深刻なデータもあった。北…

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浦松丈二

中国総局長

1991年入社。佐世保支局、福岡総局、外信部を経て、98~99年台湾師範大学留学。中国総局(北京)、アジア総局(バンコク)で計12年勤務。現在は中国語圏の若者カルチャー、文化交流などを取材している。