麗しの島から

香港区議選(下)「蛇スープ」の次は… 大勝した民主派を待ち受ける課題

福岡静哉・台北特派員
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香港の立法会では、少数派の民主派議員が激しい抵抗をする光景がよくみられる=香港立法会で2019年10月16日、福岡静哉撮影
香港の立法会では、少数派の民主派議員が激しい抵抗をする光景がよくみられる=香港立法会で2019年10月16日、福岡静哉撮影

 民主派が大勝した香港の区議選(11月24日投開票)では、初めて政治の世界に飛び込んだ多くの若者が当選した。来年1月1日の就任に向けて準備を進める当選者たちに課題を聞くとともに、次の大きな政治決戦である来秋の立法会(議会)議員選への影響を探った。

デモ警備に絶望して警察を辞し、民主派から出馬

 民主派は今回、改選前の126議席から385議席へと大きく躍進した。当選した多くは「政治の素人」と呼ばれる新人たちだ。

 香港有数の繁華街を擁する銅鑼湾選挙区から出馬し、初当選した邱汶珊氏(36)も「素人」の一人だが、元警察官という異色の経歴の持ち主。11年にわたり香港の治安を守ってきた。当選から5日後の11月29日、銅鑼湾でインタビューした。「6月に本格化した抗議デモで私の人生は大きく変わった」。邱氏は、そう切り出した。

 6月12日、デモ現場の最前線で対応に当たった。機動隊が催涙弾を相次いで放ち、約80人が負傷した。自身は警備担当で銃を握る立場ではなかったが、いたたまれない気持ちだった。その後、市民から路上でいきなり「暴力団警察」などと罵声を浴びせられることが増えた。デモが激化するにつれ、警察はますます暴力的な手法を強めた。

 「市民を守るはずの警察が、市民を傷つけている。これ以上、警察官として働けない」。8月初旬、職を辞した。デモ隊は、香港の調査委員会条例に基づき、暴力的な取り締まりをした警察官の処罰について調査する独立調査委員会を設置するよう求めている。「警察組織を正常化するには調査委を設置するほかない」。邱さんはそう痛感するようになった。

 ちょうどそのころ、知人から「銅鑼湾選挙区は民主派の候補者がいない」と聞いた。前回は親中派候補が無投票で当選し、今回も現職以外は誰も手を挙げていなかった。「民主派の選択肢を住民に提示する必要がある」。出馬を決意した。

 親中派の現職との一騎打ちとなった選挙戦でも、独立調査委の設置を訴えた。区議にその権限はないが、強い思いを市民に伝えたかった。「応援している」。元同僚の警察官からもひそかに励ましをもらった。結果は10ポイント差での勝利。邱氏が区議の一員として1月から所属する湾仔区議会でも民主派が多数を占めた。邱氏は「区議会として香港政府に対し、独立調査委の設置を働き掛けていきたい」と意気込む。課題を聞くと、こんな答えが返ってきた。「まずは事務所探し。拠点がないと仕事ができません」。手弁当で選挙戦を戦い、事務所がないまま投票日を迎えていた。区議の仕事を始める準備は、これからのようだ。

「返還後生まれ」の大学生が親中派ホープを破る

 香港島西部の西環選挙区。近くには、中国政府の出先機関「香港連絡弁公室」(中連弁)のビルがそびえる。香港では1国2制度によって保障された自治を「港人治港」(香港人が香港を治める)と表現する。中弁連が西環にあること…

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福岡静哉

台北特派員

1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。