ウェストエンドから

労働者が労働党を支持しなかった理由 「分断」を解消するのは誰か?

服部正法・欧州総局長
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労働党の地盤で戸別訪問を行う保守党のデビソン候補(左)。元役場勤務の女性(右)はこれまで労働党支持だったが、デビソン氏に投票すると話していた。デビソン氏は今回の選挙で初当選した=イングランド北部ビショップオークランドで2019年11月15日、服部正法撮影
労働党の地盤で戸別訪問を行う保守党のデビソン候補(左)。元役場勤務の女性(右)はこれまで労働党支持だったが、デビソン氏に投票すると話していた。デビソン氏は今回の選挙で初当選した=イングランド北部ビショップオークランドで2019年11月15日、服部正法撮影

 英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を最大の争点とする英下院(定数650)の総選挙が12日に投開票され、ジョンソン首相率いる与党・保守党が過半数の議席を確保した。少数与党政権であるために膠着(こうちゃく)していた議会は、これにより動き出すことになる。ジョンソン政権がEUと結んだ離脱協定を議会で通過させ、来年1月末の離脱期限にEUを離脱するのはほぼ確実だ。離脱を決めた2016年6月の国民投票から3年半、ようやく離脱のめどが立った。

現場で見えた「労働党離れ」

 11月上旬の解散時、保守党は最大野党・労働党に支持率で十数ポイントの差をつけてリードしており、保守党が過半数を獲得する可能性は高いと思われていた。だが、投票日が近づくにつれ、各種世論調査で両党の差はじりじりと縮まり、投票日直前には5~6ポイントの僅差と指摘する調査結果も出た。

 8ポイントを切ると、第1党が過半数に達しない「ハングパーラメント(宙づり議会)」になる可能性が高まるとの指摘もある。ハングパーラメントになれば、これまで同様、議会は動かない。ロンドン大の憲法調査チームは、少数与党政権となった場合、2回目の国民投票実施を求める野党や独立系議員の圧力が強まり、結果的に国民投票実施に向かう可能性があると予測していた。

 離脱か2回目の国民投票か――。まさに方向性を決する選挙と言えたが、ふたを開けてみると、与党・保守党が過半数ライン(326議席)を大きく上回る365議席を獲得し、「保守党としてはサッチャー政権時の1987年以来」(英メディア)となる圧勝。一方の労働党は、35年以来の大敗となった。

 「保守党圧勝」との出口調査結果を聞いた際には、直前の世論調査の印象が頭にあったため意外な感じもしたが、時間がたつにつれ、逆に至極当然の結果のようにも思えてきた。なぜか。選挙期間中に私自身が取材で得た感触も保守党の圧勝だったからである。

 今回の選挙結果を左右すると指摘されていたイングランド北部と中部を、選挙期間中に歩いた。このエリアはかつて石炭採掘と製造業が盛んで英国の工業と繁栄をけん引してきた。こういった産業を支えてきた労働者層が労働党を支持し、労働党の強固な地盤となってきた。一方で、ブレグジットを巡ってはこのエリアは英国内の他の地域に比べて離脱を支持する人の割合が高い。このため、離脱実現を党是として掲げる保守党にとっては、ここで労働党から議席をどれだけ奪えるかが勝利のカギになると見られていた。

 路上や家の軒先、カフェやパブの店内など、さまざまな場所で無作為に延べ30人ぐらいに投票先などを尋ねたが、労働党候補の運動員以外、労働党への支持を表明する人にはほぼ出会えなかった。

 これまで労働党に投票してきたという人には数多く会えた。「父もじいさんもそうしてきた。労働党に入れるのは『遺産』」(イングランド北部ビショップオークランドの53歳男性)とか「労働者階級だから」(ビショップオークランドの元車両組立工の83歳男性)と労働党を支持してきた理由を語る、これまで労働党に入れるのが自明のことだったという人たちだが、彼らは「労働党は離脱を止めていて、どうしようもない」(前述の83歳男性)、「離脱をこの地域の7割が支持した。それなのに3年半も実現できない。(いったんは離脱推進を約束した)労働党には裏切られた」(イングランド中部ドンカスターの52歳男性)と強い口調で労働党を批判した。

 この地域でなぜそれほど離脱が支持されるのか。以前も当コラムで指摘したとおり、理由として移民の増加への不安や「主権をEUから取り戻すため」などと口にする人が多い。だが、「多額の負担金をEUに払っている一方で地方が困窮している」(ビショップオークランドの76歳女性)ことへの不満も大きい。病院や図書館など公的サービス施設が減ったり、なくなったりすることに地方が大きな不満を募らせていることもEU批判につながっている。

 労働党のコービン党首への不満も強かった。「コービン? マルクス主義者には投票できない」(ビショップオークランドで以前は水道関連の仕事に従事していた60歳男性)。党内最左派のコービン氏とその執行部は、鉄道や郵便事業の国有化などを主張するなど社会主義色の強い政策が目立ち、これも反発を招いた。

 また、前述のビショップオークランドの53歳男性はこう言った。「町の目抜き通りを見てごらんよ。シャッターを下ろしたままの店や空きスペースばかりじゃないか。労働党の議員が、いったいこれまで町に何をしてくれたと言うんだい」。地域の衰退への不満も、労働党に向けられていた。

 そういった労働党への反発や不満、不安がうねりとなって、選挙ではさながらオセロゲームで黒白の石がひっくり返るように、労働党の議席がパタパタと保守党に替わった…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。